戦国の頃、三千両の黄金を携えた8人の武者がこの村に落ちのびた。だが、欲に目の眩んだ村人たちは8人を惨殺。その後、不詳の怪異があい次ぎ、以来この村は「八つ墓村」と呼ばれるようになったというーー。大正○年、落人襲撃の首謀者田治見庄左衛門の子孫、要蔵が突然発狂、32人の村人を虐殺し、行方不明となる。そして20数年、謎の連続殺人事件が再びこの村を襲った……。
23.4.20再読書き足し。
タイトルのインパクトの強さだけでなく、金田一作品史上おそらく一番人口に膾炙している作品である。岡山が舞台となった作品の一つでもある。実際に起きた「加茂30人殺し」を参考にしており、戦国時代に起きた落人8人殺しと大正時代に起きた村人32人殺しという酸鼻を極める事件で幕を開ける。正直一番読者の気持ちを盛り立てるのはここだろう。32人殺し・要蔵の白鉢巻に懐中電灯を2本挟んだ出で立ちの恐ろしさは他に類を見るまい。
それらが直接本筋の事件に関係あるわけではないが、本作が32人殺し要蔵の血を引く青年・辰弥を語り手としており、過去の忌まわしい事件が現在でも村人の心に尾を引いていることは間違いない。
ある平凡な青年が突然お前は多治見家の跡取りだと呼び戻され、次期当主として居着いた途端次々と村人が毒殺されてゆく戦慄の物語。それぞれ2人ずつの未亡人、医者、坊主などの片方が殺されるという不可思議さと、洞窟内で屍蝋化した「三十二人殺し」の男の存在。加えて美しい未亡人に魅惑され、病弱な姉に慕われ、妹に愛されるモテ男が殺人の容疑者になるという展開には作者の嗜虐趣味を感じた。
それにつけても、我らの金田一耕助である。彼の携わった事件の中で一番被害者が多いのではないか?と思う。金田一曰く、犯人は最初から分かっていたらしい。。最後の1人が殺されるまで犯人の動機が分からないというのがこの事件の難解なところで、他の人間の思惑がさらに事態をややこしいものにしていた。推理で事件を解決した、という点ではあまり金田一に光るものはないが、冒険譚としてもロマンス小説としても味わい深い作品ではないかと思う。