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もつれっぱなし (ねこ3.8匹)

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井上夢人著。講談社文庫。

冬眠から復活した井上氏のちょっと変わった6編収録の連作短編集。
4月に待望の文庫化。早速出版社では現在在庫切れになっていた。

何が変わっているかと言うと、ここに収録された物語は全て「男女の会話」だけで
構成されている。「すぐ読み終わりそう」と思ったそこの貴方。その通りです。

全ての物語は、一方が「宇宙人に会った」「私は44年後から接触している」
「自分は狼男だ」「呪いをかけた」などと奇妙な話を持ちかけ、片方がそれを
会話で証明してもらうためにがんばっちゃう、という体裁。
会話はとことん噛み合わず、もつれにもつれ最後にはそれぞれユニークな
結末が用意される。

最終的には証明には至らないのだが、「推理を持って話者の粗を探し読者が
想像力で解決する」スタイルではない。謎は謎のまま放置、あまりの荒唐無稽さに
はっきり言って真偽のほどはどうでもよくなって来る。
いや、ずばり「そんなわけねーだろ」だ。
そこを、読者が「いや、でも、もしかして……」と思えたらこの作品集は成功だ。

実は、最終の「嘘の証明」だけは「荒唐無稽」というのに当てはまらない。
少女が万引きをしたかどうかという現実的な題材だからだ。
だけど、これがまた他の作品とは違った面白さを体験させてくれる。
個人的にはこれがお気に入り。

誰でも書けそう?甘い甘い。こういうのって相当の文章力がないと読めたもんじゃないぞ。