すべてが猫になる

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オルゴォル  (ねこ3.5匹)

朱川湊人著。講談社

「実は前から、ハヤ坊に頼みたいことがあってなぁ」東京に住む小学生のハヤトは、トンダじいさんの“一生に一度のお願い”を預かり、旅に出る。福知山線の事故現場、父さんの再婚と新しい生命、そして広島の原爆ドーム。見るものすべてに価値観を揺さぶられながら、トンダじいさんの想い出のオルゴールを届けるため、ハヤトは一路、鹿児島を目指す。奇跡の、そして感動のクライマックス!直木賞作家による感動の成長物語。(紹介文引用)
 
10年以上ぶりに読む朱川さん。それまではずっと新刊出たら読んでいた作家さんなんだけど、なぜ読まなくなってしまったのだろう?ということで久々に少年の成長物語が描かれた本書を。
 
主人公は両親の離婚により母親と2人で暮らす小学4年生ハヤト。同じ団地に住むトンダじいさんに2万円をもらい、鹿児島に住むツガミシズさんにオルゴールを渡して欲しいと頼まれてしまう。その後トンダじいさんは亡くなった。貰った2万円はゲームに使い、約束を破ろうかと迷っている矢先、父の住む大阪へ世話になることに。父に新しい家族ができたことでショックを受けるハヤトだが、ひょんなことから父のマンションに住むサエさんと共に広島~鹿児島へ向かうことになったのだが――。
 
うん、感動的でいい作品だと思う。クラスで騒ぐタイプの少年だったハヤトが、福知山線脱線事故の現場や原爆ドームなどをその目で見、知らない土地の文化や自分と違う考えを持つ人と出会うことで成長していく。子どもにはちょっと辛い試練もあったかも。しかしサエさんや父は「大人になればハヤトにもわかる」と人生の様々なことをハヤトに教えていく。クラスで避けられていた友だちが旅を経て親友になったりする。非のうちどころのない綺麗なストーリー。
 
ちょっと何か含んだような書き方になって申し訳ない。これは本当に自分がひねくれていることが原因であって参考にしないで欲しいのだが、題材があまりにも教科書的で説教臭くてキツいところがあった。なんだか学校の課題図書みたい。子どものみならず、人が成長する物語で作家さんには扱って欲しくない題材というものが自分にはあって、それはもちろん例外もあるのだが、本書では例外にはならなかった。「そこから何も学ばない、何も感じない人間はいないだろう」と思ってしまうのだ。もう少し、作家さんならではの着眼点や身近だがなかなか気づけない独特のハっとするような発想が欲しい。朱川さんを読まなくなった理由を思い出した読書となってしまった。作品自体は世間評価も高く、素晴らしいもののはずなのであしからず。。