ヘニング・マンケル著。柳沢由実子訳。創元推理文庫。
ひとり小島に住む元医師フレドリックのもとに、37年前に捨てた恋人がやってきた。不治の病に冒された彼女は、白夜の空の下、森に広がる美しい湖に連れていくという約束を果たすよう求めに来たのだ。願いをかなえるべく、フレドリックは島をあとにする。だが、その旅が彼の人生を思いがけない方向へと導く。〈刑事ヴァランダー・シリーズ〉の著者が描く、孤独な男の再生と希望の物語。(裏表紙引用)
ヘニング・マンケル2冊目。
「殺人者の顔」が良かったのと、本書のタイトルが綺麗だったので読んでみた。ひとりの元医師の孤独な男フレドリックが元カノや実は存在していた娘、過去に自分が犯した失敗のせいで不幸にしてしまった女性などと再会し、人生を再スタートさせる物語。ミステリ要素はなし。
フレドリックのもとへ余命いくばくもない元カノ・ハリエットがいきなり島へやってきて昔交わした約束の湖に連れて行けと言ったり、犬に追いかけられたり、拳で殴られたり、氷の湖に落ちたりと前半は結構ドタバタ系。健康なのにいつもどこかが悪いと訴える郵便配達人ヤンソンとの関係もなんだかいいし、名前はないけど飼っている犬や猫ともうまくやっている感じ。「人生で1番素敵な約束」「人生は人と靴との関係のようなもの」など、おしゃれなフレーズが多いので文学としてもなかなか。スウェーデンの離島の極寒の雰囲気も味わえるし。
……と結構気に入りつつ読んでいたのだが、後半に進むにつれ主人公フレデリックのダメダメぶりが露顕してしまう形に。。
若い頃に面倒が嫌で恋人を捨てた男が、老人となって孤独に耐え切れなくなっていたところ、突然昔の恋人ハリエットと娘ルイースが現れる。それをきっかけに人生をやり直そうと思った男は、昔自分が間違いで片腕を切断してしまった女性水泳選手アグネスに会いに行く。しかしハリエットとルイースに過去の所業を責められ癇癪を起こし、あげく今までいい関係を築き始めていたアグネスに襲いかかる。。でも全部許され、島でのこれからの生活には希望が見え始めるのだった。ちゃんちゃん。
ん?なんだこりゃ?
そもそもフレデリックには盗み聞きや人の持ち物や引き出しを漁るなどの悪癖があり、その時点でどうなんだという男である。性的に迫ってきた爺さんの元へ預かっている女児たちを住まわせようとするアグネスもよくわからない。随分と片方だけに都合のいい、古い感性のお話だなあと思った。自分勝手な男の中にもまれにラッキーな男がいる、ということか。