アレックス・パヴェージ著。鈴木恵訳。ハヤカワ文庫。
独自の理論に基づいて、探偵小説黄金時代に一冊の短篇集『ホワイトの殺人事件集』を刊行し、その後、故郷から離れて小島に隠棲する作家グラント・マカリスター。彼のもとを訪れた編集者ジュリアは短篇集の復刊を持ちかける。ふたりは収録作をひとつひとつ読み返し、議論を交わしていくのだが…… フーダニット、不可能犯罪、孤島で発見された十人の死体──七つの短篇推理小説が作中作として織り込まれた、破格のミステリ(裏表紙引用)
ロンドンの数学博士が描いたデビュー作。ハヤカワのイチオシぽいので飛びついた。
7つの独立した短編の後に毎回<対話>の章が挟まれ、編集者ジュリアが短編の作者グラントに各話についてインタビューをする。ジュリアが作品の矛盾点を暴き、グラントが数学的に殺人ミステリーの講義をする、というパターン。それぞれの作品ごとの登場人物表がついているので親切。
容疑者が1人のもの、登場人物が2人のもの、探偵役が容疑者に含まれるもの、全員が犯人というものなど、本格ミステリーのパターンに沿ってそれぞれの短編が紹介される。各話のレベルが高いので、これだけでもそれなりに満足して読み終えられそうだった。そして<最後の対話>→<第一の結末>→<第二の結末>と、段階を経てこの小説に仕掛けられたトリックが明かされていく。どんでん返しというよりは一つずつネタバラシをしていく感覚。
ジャンルは好みだし読みやすいのでそれなりに楽しめたが、数学講義(ベン図とか図がないと分からない)が小難しいのと<アンチミステリー><メタミステリー>の枠だと思えば期待以上のサプライズや斬新さはなかったのが残念。おそらく、今年のランキングの上位には食い込んで来ると思うが…。