すべてが猫になる

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ムシカ 鎮虫譜  (ねこ4匹)

 

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井上真偽著。実業之日本社

スランプに悩む音楽大学の同級生グループが夏休みに訪れたのは小さな無人島。そこには霊験あらたかな音楽の神が祀られているという。しかし、上陸し神社をお参りする彼らを待っていたのは、なぜかカメムシの大群だった。カマキリ、スズメバチ、ムカデ、そして…。次々に襲撃される彼らの危機に現れた謎の巫女たち、そして、虫の怒りを鎮める音楽「鎮虫譜」の真実とは?(紹介文引用)
 
井上さんの新刊。
井上さんって、虫や音楽にも造詣が深いのか、と驚く1冊。進路に悩む音大仲良しグループが、セレブ学生の美亜に誘われて無人島の空島へ旅立つことに。観光案内員さえ知らないその島には、音楽にご利益のある神様を祀った神社があるという。しかし無人のはずのその島で、洞穴内に閉じ込められた人間を発見、さらに巫女姿の人々が次々と現れて…。この島に隠された秘密とは?手足笛の真実とは?人を襲う大量の虫たちに襲われた彼らの運命は…。
 
ちょっと思っていたのと違った。なんといっても殺人が起きない。とはいえつまらないわけではなく、カマキリや蜂、コウモリやムカデの大群が次々襲ってくる恐怖、気持ち悪さといったら迫力満点だし、それを次々手持ちの楽器を駆使して撃退するアクション的展開は臨場感いっぱい。ヴァイオリンの代わりにヴィオラ、笙の代わりにピアニカ。プロを目指す音大生と音楽島の巫女たちだからこそ対処できる方法ばかりで、そこに虫の薀蓄も加わり読み応え抜群。もう情報過多って感じ。巫女らの不気味な雰囲気もバッチリだし、少女巫女・音緒や菊理らのピュアさが残る芯の通った感じも嫌いじゃない。音大生らがそれぞれはぐれてしまって、別の巫女らと行動を共にしそれぞれのピンチに対応するから飽きないし。しかも、音楽雑誌出版社グループばかりか(出てきた瞬間、「あ、やられ要員だな」と思ってしまった)謎のフリーピアニスト少女・奏とめちゃくちゃアホっぽい女性マネージャーまで登場。もういっぱいいっぱい。この奏、男言葉で出自は謎、演奏は天才級、頭脳は大人。巫女らに蛇風呂拷問されそうになった音大生らのピンチを見事な推理で救ったシーンはすごくカッコ良かった。なんだよ君が探偵役かよ~。それに反して、マネージャーのキャラの酷さに辟易したけど…。新シリーズっぽいけど、このマネージャーがセットで出てくるならちょっと遠慮したい。それぐらい不快なキャラだった。。だって30代女性が小指立てて「お兄さんのコレですかい?」とか言うんだよ。。マンガならいいけど、かなりイタイ。。奏や音大生グループ側はともかく、人間的に腐ってるなあ、ってのも結構いるのでムカムカすることも多々。まあたいてい虫にやられるんだけどね。。
 
ミステリ的には、蛇風呂での一幕と、ラストで手足笛の真実を奏がスマートに暴くシーンがあるので井上ロジックは楽しめるかな。音大生が全員、この経験を経てスッキリしちゃうってのはご都合主義かなあと思わなくもないけど、菊理や音緒たちと芽生えた絆は良かったし、島の秘密が全部暴かれたのも良かったと思う。殺人事件ものではないのと、虫が苦手な人(私もだが)、音楽(雅楽やクラシック)が苦手な人がこれを読んでどうかはちょっと分からないけど…。エンタメとして読める作品だし、少なくとも井上ファンの期待は裏切らないと思う。