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ワタクシハ  (ねこ3.8匹)

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羽田圭介著。講談社文庫。

高校生でメジャーデビューを果たしたものの、バンド解散後は売れないギタリストとして燻っていた太郎。大学三年の秋、慌しく動き出す周囲の言動に違和感を覚えながらとりあえず始めたシューカツだったが…。「元有名人」枠などどこにもないというキビシイ現実の中、太郎は内定獲得に向けて走り出していく。(裏表紙引用)
 
羽田さん3冊目。就職活動をテーマにした小説が自分は好きなようで、沢山ある羽田作品の中からこれを選んでみた。朝井リョウさんの「何者」と比較している人はやはり多いね。
 
主人公は21歳の大学生・山木太郎。羽田さんが描くバンドマンの就活生、というからさぞや痛々しい人物なんだろう、と思いきや。いやいや、最初の方こそ「アナウンサーにならなってやってもいい」だのとのたまう不遜な人物だったが、就職活動を始めてから自己や世の中を見つめるようになりどんどん変わって行った。そもそも、高校生で凄テクのギタリストとして何千人の中から選ばれ、メジャーデビューし、30万枚を売ったという経歴からして「ただの人」ではないのだ。毎日7時間の練習を欠かさず、なりたいものにはとにかく努力が必要だと誰よりも実感している。その「努力」が努力だけで通用しないのが音楽の世界であったし、そしてそれは就職活動でも同じであった。「乗り越えるべき壁が見えない」。
 
やがて太郎は、大企業に落ち続けたが中小企業ではミスをしてもあっさり内定をもらえ「選ぶ側に見る目がない」とうそぶく。世の中の決定事項や運命は極めて曖昧であり、軸を持つことで他の可能性や別の思考を断つことになるのだ。……と、いうことに気づく一人の若者の物語。小説としては完結していないが(なんといってもまだ21歳なのだ。物語はこれから始まると言っていい)、自分はここに「それだけ」ではない、世の中への真摯で冷静な視点というものを感じた。作品と作者は切り離されるものだと聞くが、羽田作品に関しては作者の思考や視点がかなり色濃く表現されているように思う。
内容としては淡々としておりリアルだが、自分に合っていたのか学ぶことが沢山あった。太郎のバンド、売れるといいな。