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ピクニック・アット・ハンギングロック/Picnic at Hanging Rock  (ねこ4匹)

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ジョーン・リンジー著。井上里訳。創元推理文庫

 

あの日は絶好のピクニック日和だった。アップルヤード学院の生徒たちは、馬車でハンギングロックの麓に向けて出発した。だが、楽しいはずのピクニックは暗転。巨礫を近くで見ようと足をのばした4人の少女と、教師ひとりが消えてしまったのだ。何があったのかもわからぬまま、事件を契機に、学院ではすべての歯車が狂いはじめる。カルト的人気を博した同名の映画原作、本邦初訳。(裏表紙引用)

 


なんかすごい本を読んだ。

 

解説抜粋で申し訳ないが、本作は日本で1986年に映画が公開され、「究極のカルト映画」として今でもマニアの間で人気があるそうだ。それの原作本が発売ということで、もねさんのところで表紙絵とタイトルだけに惹かれた自分も早速読んでみた。

 

舞台は1900年のオーストラリア。いいところのお嬢様ばかりが所属する寄宿女学校アップルヤード学院では、課外授業としてハンギングロックへピクニックに行く興奮に満ち溢れていた。しかし道を外れた4人の少女と1人の数学教師が突然行方不明になってしまう。未曾有の大事件として捜査が開始されたが、1人の少女の生還を経ても手がかりひとつ見つけられないまま月日が流れていった。あの日ハンギングロックで何が起きたのか?残された学院の人々は混乱し狂乱する――。

 

冒頭からしばらく、自然の描写と箱入り娘たちののんびりとしたおしゃべりが延々と続くので「これ読み続けられるだろうか」と不安になった。しかも、わずか数ページの間に10人強の生徒の名前と4人の教師、4人の従業員が出てくるのだ。馬2頭にまで名前がついている。

 

面白くなるのは女の子たちが行方不明になってから。貴族の息子やその御者が謎解きに乗り出したり、保護者たちがこぞって娘を退学させたがったり。特にアップルヤード校長がなかなかのクズキャラとして際立っていて、気に入らない生徒に暴言を浴びせるなど呆れる行動が多い。集団ヒステリーやおとなしい教師が暴力的に変貌するなどみどころ満載で、まあこれなら謎が最後まで解明されないほうが逆に良かったんだろうなと思った。あとがきに削除された最終章が掲載されているが、これはなくして正解だろうなと。分からないままだからこそこの作品を不気味で特別なものにし得ているし、未だに語り継がれているのだろうと。そもそも創元の白背だし。賛否あるかもしれないけど、私はかなりこれ好きよ。