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朝が来る  (ねこ4匹)

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辻村深月著。文春文庫。

 

長く辛い不妊治療の末、特別養子縁組という手段を選んだ栗原清和・佐都子夫婦は民間団体の仲介で男子を授かる。朝斗と名づけた我が子はやがて幼稚園に通うまでに成長し、家族は平仮な日々を過ごしていた。そんなある日、夫妻のもとに電話が。それは、息子となった朝斗を「返してほしい」というものだった―。 (裏表紙引用)

 


辻村さんの文庫新刊は、不妊治療と特別養子縁組制度を扱った作品。長くキツイ不妊治療を経て養子をもらった40代の佐都子にも、中学生で子どもを産み泣く泣く我が子を手放すことになったひかりにも、どちらにも身につまされるものがあった。

 

最初は佐都子の「タワマンママ奮闘記」から始まるので、先日読んだ「ハピネス」のような内容なのかと思っていたら全然違った。ママ友との諍いを経て不妊治療の辛い過去に遡るまでは想像の範疇だったが、ある日朝斗の産みの母から脅迫電話が掛かってきたのだ。しかし訪ねてきた実の母を名乗る女は佐都子の知っている朝斗の母親とは別人のようだ――。どうやらこの作品は、「子どもを返せ」から始まる実の母とは育ての母とは、というテーマに切り込んだ内容ではないようだ。

 

対するひかりの章は、最初はやはり判で押したような、「中学生で妊娠してしまった女の子」で想像しうる人物像まんまだと思った。しかし、ひかりもちょっと人より背伸びがしたいだけの、親に学校に不満を抱えるどこにでもいる普通の女の子だったのだ。自己責任という言葉があるが、この年齢で賢く立ち回れと言われてもムリだろう。周りはひかりのためにサポートをしようとしてくれていたのだ(叔父に言った母はどうかと思うが)。


結果的に完全にひかりの方に感情移入しまくってしまい、時間を忘れ一気に読了。脅迫なんてとんでもない行為だと思うが、そうなってしまうまでに至る事情があまりにも哀れで、不覚にも涙ぐんでしまった。根は悪い子じゃないのにね。ラストで佐都子とひかりが出会い心を通わせるシーンではさらにボロ泣き。。広島のお母ちゃん…。ううう。

 

佐都子の人物像が立派すぎる気もするし、ひかりはなんだかんだ言って私個人の見立てでは更生するかどうか疑わしいのだが(自分の感想に水を差すようだが、理屈と感情は別なので)、対照的な2人の女性の人生をリアルに描いた秀作だと思う。