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探偵が早すぎる  (ねこ3.8匹)

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井上真偽著。講談社タイガ

 

父の死により莫大な遺産を相続した女子高生の一華。その遺産を狙い、一族は彼女を事故に見せかけ殺害しようと試みる。一華が唯一信頼する使用人の橋田は、命を救うためにある人物を雇った。それは事件が起こる前にトリックを看破、犯人(未遂)を特定してしまう究極の探偵!完全犯罪かと思われた計画はなぜ露見した!?史上最速で事件を解決、探偵が「人を殺させない」ミステリ誕生! (裏表紙引用)

 

 

今の本格ミステリ界でこの井上真偽さんより面白い作家はいない、と本気で思っているのだが、位置づけとしては麻耶さんと同じ(意味は推して知るべし)。

 

そんな井上さんが、少しでも一般寄りに(若年層寄りに?)講談社タイガから出したのが本書。事件を未然に防ぐ探偵、ということで奇想ぶりは健在。ヒロイン一華の世話役橋田との百合関係や遺産を狙う一族それぞれのキャラクターの立ちっぷりなどなど、エンタメとしてもワクワクする要素満載だ。上巻は一族が章ごとに一人一人一華殺しの刺客として登場するが、トリック実行前に謎の探偵が現れ犯罪は不成立、さらに「カエサルのものはカエサルに」を地でくらってしまうというパターン。下巻は、祖父の法要で一族が一堂に会し、さらに新たな刺客が(後は同じパターン)という流れ。金持ちすぎてテロリストや殺し屋も雇えるため最早マンガ。

 

文句なく面白いが、トリックを未然に防ぐという性質上どうしてもミステリ的なロジックは緩いと言わざるを得ないか。さらに脇役キャラを描き分ける能力に長け、肝心の探偵千曲川さえかすんで見えてしまったのが裏目。最後は橋田が全部持っていった感すごいしね。井上ファンウケは間違いない作品だと思うが、個人的には「その可能性は~」シリーズに圧倒的に軍配が上がるなあ。