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死命  (ねこ3.8匹)

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薬丸岳著。文春文庫。

 

若くしてデイトレードで成功しながら、自身に秘められた女性への殺人衝動に悩む榊信一。ある日、余命僅かと宣告され、欲望に忠実に生きることを決意する。それは連続殺人の始まりだった。元恋人の澄乃との皮肉な再会。犯人逮捕に執念を燃やす刑事・蒼井にも同じ病が襲いかかり、事件の展開は衝撃の結末を―。(裏表紙引用)

 


月に1冊薬丸さん。

 

本書は、女性をターゲットにしたサイコキラーをテーマにした作品。バツイチの澄乃は、かつて故郷新潟で恋焦がれていた信一に再会。信一はデイトレードで成功し、豪華マンションで生活、男性としてもますます魅力的になっていた。しかし、信一は末期の胃がんを患っており余命幾ばくもない身体だった。そして信一は、自分の内面に巣食う女性への殺人衝動を御しきれなくなっていた――。一方、連続して発生する女性扼殺事件を担当する蒼井もまた末期の胃がんにかかっていた。

 

サイコキラーとそれを追う刑事が同じ病気に苦しみ、一方は残された人生を衝動のままやりたいようにやり、一方はそれを捕まえることに執念を燃やすというこの対比が読みどころ。個人的には信一のような全ての女性の敵は息をしてもらわなくて結構だし、澄乃はそれを知らないとは言え自分の首を絞めるような男をなぜそこまで想えるのかが不思議でならなかった。この2人にはかつての仲を引き裂くような衝撃的な出来事があったのだが、信一の過去を知ってみると歪んだ人間が形成されても仕方なかったのかなとは思う。殺人は許されないが。

 

まあ信一サイドについてはそれぐらいの感情しか湧かずで、真の主人公は刑事の蒼井のほうかなと。最初は家庭を顧みず、部下に偉そうな蒼井にいい印象はなかったが、死期を悟ってからの、悪に対する憎しみとその執念には頭が下がる思いだった。(信一についた嘘はどうかと思ったが)部下の新米刑事・矢部が蒼井と組んでから人として刑事として見事に成長したのも感動的で。

 

ところどころ、心理的に理解しがたい人物がいたのは認めるが、最後まで夢中になれた。先日読んだ「逃走」よりはずっと面白かったかと。このまま下がっていくのかと思っていたので安心。