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暗い越流  (ねこ4匹)

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凶悪な死刑囚に届いたファンレター。差出人は何者かを調べ始めた「私」だが、その女性は五年前に失踪していた!(表題作)女探偵の葉村晶は、母親の遺骨を運んでほしいという奇妙な依頼を受ける。悪い予感は当たり…。(「蝿男」)先の読めない展開と思いがけない結末―短編ミステリの精華を味わえる全五編を収録。表題作で第66回日本推理作家協会賞短編部門受賞。(裏表紙引用)

 

 

葉村晶シリーズかと思って手を出したら、普通の短編集だった。しかし5篇中2篇は葉村シリーズだったので嬉しい。

 

「蠅男」
葉村晶シリーズ。群馬県にある母の遺骨を取って来て欲しいという奇妙な依頼を受けた晶だが――。現地でまたしても酷い目に遭う晶さん。以前の白骨頭突きを越えたね^^;長編ぐらいの濃密さがある。

 

「暗い越流」
弁護士に送られてきたファンレター。それは多摩川5人殺しの犯人宛てだった――。主人公に複雑な事情があることがこの陰惨な話と絡んでいて、若竹さんのテクニックの高さを感じる。闇の世界の恐ろしさ。

 

「幸せの家」
「暗い越流」と登場人物がクロスオーバーしているが、ストーリーに関係はない。ライフスタイル雑誌の鍋特集に応募してきた読者の中に、編集長に脅され殺した犯人が?またしても主人公の心の闇が絡んでくる。掃除して料理してものを大切にしてしっかり生きるというスタイルとの対比が見事。

 

「狂酔」
教会で身の上話を始めた男。彼は子どものころ何者かに誘拐されたと告白するが――。ホラーのような展開で、男が話し進めるうちに明らかになる事実にゾクゾク。いいお話かと思ったらどん底に叩き落としてくるあたり若竹ワールドの極み。

 

「道楽者の金庫」
葉村晶シリーズ。豪邸の遺品整理に駆り出された晶さん。ミステリ本とこけしまみれの家で作業に勤しんでいたが、突然依頼人から中止を求められ――。純粋な謎解きもので、相変わらず大怪我をしながら解決する晶さん。子消し=こけし、ってデマなの?


以上。
表題作が群を抜いて出来がいいのは当然としても、駄作なしの秀作ぞろい。クールな文体で濃密、ブラックかつ知的でいうことなしの短編集。葉村ファンには必読だし若竹さん入門としてもオススメ。この1冊で若竹さんという作家の特性が全てわかる。