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紙の動物園/The Paper Menagerie and Other Stories  (ねこ3.8匹)

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ケン・リュウ著。古沢嘉通訳。ハヤカワ文庫。

 

香港で母さんと出会った父さんは母さんをアメリカに連れ帰った。泣き虫だったぼくに母さんが包装紙で作ってくれた折り紙の虎や水牛は、みな命を吹きこまれて生き生きと動きだした。魔法のような母さんの折り紙だけがずっとぼくの友達だった…。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞という史上初の3冠に輝いた表題作など、第一短篇集である単行本版『紙の動物園』から7篇を収録した胸を打ち心を揺さぶる短篇集。 (裏表紙引用)

 


いま世界中のSFファンに最も期待されているというケン・リュウの作品を読んでみた。文庫化にあたり2分冊され、お試ししやすい価格に設定したとのこと。ありがたいやね。

 

「紙の動物園」
カタログで妻を選ぶという設定だけで全部心持って行かれる感じ。香港出身の母がアメリカの暮らしに適応出来なかったのが悲しいな。

 

「月へ」
月での生活を渇望するが月人に受け入れてもらえない'父'と、亡命事件を担当する新人弁護士のサリーのお話。本当の正義とは?お手伝いルイサのエピソードが全てを示唆していると思う。一気にSFくさくなった。

 

「結縄」
ミャンマーはナン族の村にアメリカからやってきた男・ト・ム。ここ数年の干魃がひどく、ト・ムは村長を種籾と引き換えにアメリカの研究所へ連れ出すが――。作者が元プログラマーだという経歴が発揮された作品。結び目が言葉を紡ぐというのが面白い。しかしト・ムひどいなあ…。

 

「太平洋横断海底トンネル小史」
太平洋横断海底トンネル掘りの台湾人の男の身に起きた出来事を描いているが、このお話は正直全くわからなかった。どう改変されているんだろう。

 

「心智五行」
人間が生存可能な惑星から六十光年離れ遭難中の調査船。生き残りのタイラとアーティ、ファーツォンの通信で物語が進む。これぞ文化の違いが生んだ悲恋?

 

「愛のアルゴリズム
最先端テクノロジー人形を設計した妻とトイ社CEOの夫。心を病んでしまった妻と頼りになるようでならない夫の関係には現実感あるかも。今の時代、人形が喋ったとしても誰も取り憑かれたとは思わないけど、不気味であることに違いはない。こうなるだろうなという結末が不憫。

 

「文字占い師」
小学生のリリーは、アメリカから台湾に引っ越してきたが同性からのいじめに耐えていた。そんな時、ある中国人の老人と知り合うが――。漢字で運勢を占ったり、漢字の成り立ちについて語られたりと色々勉強になる(笑)。忘年之交って素敵だなあ。しかし2.28事件を題材にしていて内容は重い。拷問シーンは読んでいられなかった。


以上。「紙の動物園」が圧倒的に面白く取っ付きやすいが、個人的には「結縄」「月へ」も好みだった。作者が米国育ちの中国人ということで、中国の歴史はもちろん医学や架空史、IT関連と引き出しは多い。テーマが愛の喪失であったり偏見と差別であったり、戦争がもたらしたものの重みや変えられない宿命であったりするため全体的に読後感は重い。ファンタジーであることとのバランスがいいのかな。読みづらくはない。

 

まあ、全ての作品を気に入る必要はないと思う。もう1冊のほうもいつかは読むかな。アジア文学いいかも。