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逃走  (ねこ3.7匹)

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薬丸岳著。講談社文庫。

 

死んだはずのあの男がいた。小さかった妹とふたりで懸命に生きてきた21年間はなんだったんだ?傷害致死で指名手配されたのは妹思いで正義感が強い青年。だが罪が重くなるとわかっていても彼は逃げ続ける。なんのために?誰のために?渾身の全面大改稿、ほぼ書下ろしの秀逸ノンストップ・エンタメ! (裏表紙引用)

 


う~ん、及第点?文庫化にあたり、大幅改稿がなされたらしい。あとがきによると、エンディングのみならず登場人物の行動から構成からかなり変わって別物のようになっているのだとか。その割に世間の感想に大きな差異があるとも思えないがまあそこはそれ。

 

本作は、施設で育った小沢裕輔があるラーメン店店主を暴行し死なせてしまったところから始まる。自ら通報をしたが裕輔は当て逃げの末逃亡。2人きりの兄妹である美恵子と友人の篤史は、なぜ正義感が強く優しい裕輔が人を殺してしまったのか、彼は何を探っているのかを探る。やがて判明する意外な事実に、事件の様相が変わり始める。

 

裕輔たちの母親が夫を保険金目当てで殺害し18年間服役していたことが序盤で明かされる。ストーリー的には想像していた通りの真実がそのまま明かされる感じ。唯一驚かせてもらった要素はあらすじに既に書かれていたし意外性でもなんでもなかった。それなりに色々な事実がわかって物語は盛り上がるものの、もともとの登場人物の行動や人柄、設定に色々違和感がありちょっと白けてしまった。美恵子がこの年齢まで母親の秘密を全く知らないなんてことは考えづらいし、(読者目線の役割となっている分には良いと思うが)罪を重くして妹たちに心配をかけてまで今調べなければいけないことだろうか?などと疑問に感じた点も。反面、篤史の過去や裕輔たちの辛い虐待の記憶などは心揺さぶるものがあったが。

 

しかし、好青年の裕輔の人物評価としては、周りが思うほど善人でも倫理観のある人でもないのでは?と思う。自分でも「逃げたかっただけかもしれない」と言っているが。。あまり自分自身に反映できない内容だったもので、それじゃ冷たいかな?