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アキラとあきら  (ねこ4.4匹)

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池井戸潤著。徳間文庫。

 

零細工場の息子・山崎瑛と大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬。生まれも育ちも違うふたりは、互いに宿命を背負い、自らの運命に抗って生きてきた。やがてふたりが出会い、それぞれの人生が交差したとき、かつてない過酷な試練が降りかかる。逆境に立ち向かうふたりのアキラの、人生を賭した戦いが始まった―。感動の青春巨篇。文庫オリジナル。(裏表紙引用)

 

 

2006~2009年に「問題小説」に連載されていたが書籍化されていなかった作品がこのたび文庫オリジナルで発売されたとのことで。WOWOWでドラマ化されるということで、そのポスタービジュアルを見て「なんて面白そうな話なんだ!」と鼻息荒く入手。幼い頃に父の経営する工場が倒産した過去を持つ山崎瑛役が斎藤工さん、東海郵船の御曹司、階堂彬役が向井理さん。個人的にはこのキャスティング、逆では?と思っているのだが。

 

まずは幼少時代から2人の人生が描かれる。瑛は工場の倒産により一家で夜逃げをし、その悲惨な経験から、自分は銀行員として1人でも多くの人を助けたいと志すようになる。彬は同族会社の体質や叔父たちや父の軋轢に嫌気が差し、家業は継がずに銀行員となることを決意。それまでの2人の人生に接点はほぼないが、2人とも同じ産業中央銀行半沢直樹の銀行?)に就職するので、ここからアキラとあきらの対決が見られるのかと胸躍らせたが――全くそういう話ではなかった。新人の稟議書対決というのはあったが。

 

基本的にはそれぞれの立場、状況にある出来事が交互に展開され、あきら同士の交流自体終盤までほとんどない。そもそも対立してはおらず、出会いのシーンもなく(幼少の頃に顔だけは合わせているが)すでにお互いがお互いを認めている存在。瑛は娘が重病で手術代が必要なのに経営が立ちいかない一家のために奔走、彬は叔父たちや弟の勝手な行動に振り回される。どちらかと言えば彬寄りの物語ではあるが、どちらのお話も本当に手に汗握る展開が続き、経営ってこんなに面白いんだと胸を熱くした。特に彬サイドの叔父たちの横暴には心の底から腹が立ったので、ずっと「失敗しろ失敗しろ」と呪いながら読んでいた(笑)。まあ読者共通の感情だろう。

 

もっとあれがこうなってあの人がああなってと語りたいぐらい読み応えタップリの内容なのだが、そこは未読の方のお楽しみで。池井戸作品のイメージ通り、勧善懲悪に徹している物語なので爽快感は間違いなし。個人的には、彬と瑛の交流をもっと深く熱く描いてもらえればと思う。だってタイプは違えどどっちも優秀でいい人なんだもん。それなりの大長編なのだが、今はまだまだ話が続いて欲しかったという批判ではないほうの物足りなさに襲われているところ。