すべてが猫になる

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ハイ・ライズ/HIGH-RISE  (ねこ3.8匹)

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J・G・バラード著。村上博基訳。創元SF文庫。

 

ロンドン中心部に聳え立つ、知的専門職の人々が暮らす新築の40階建の巨大住宅。1000戸2000人を擁し、マーケット、プール、ジム、レストランから、銀行、小学校まで備えたこの一個の世界は、10階までの下層部、35階までの中層部、その上の上層部に階層化していた。全室が入居済みとなったある夜起こった停電をきっかけに、建物全体を不穏な空気が支配しはじめた。中期の傑作。(裏表紙引用)

 

 

なんて新しい、現代的なお話なんだろう。と思ったら70年代の作品だった。J・G・バラードと言えば私は10年以上前にわずか2ページで挫折して以来(「結晶世界」)寄り付かなかった作家なのだが・・・これは普通に読めたし面白かったな。作者の「人間が探求しなければいけないのは、外宇宙ではなく、内宇宙だ」という考えにも共感出来るし。

 

この物語は、40階高層マンションに暮らす約2000人の人々の、人間としての根源的な狂気、欲望、を丸裸にしている。女優や医者、テレビプロデューサー、評論家、キャスターなど、いわゆる「成功者」と呼ばれる人々がそこには暮らしており、その階級は彼らが住む階数によって区分けされている。暴動化するきっかけが停電というのが人間の脆さ。それにしても、エリートの人々がここまで暴力に身をさらすというのが恐ろしかった。今まで何も悪いことをしてこなかった反動ってやつだろうか。食事をまともに取らなくなったりあちこちで排尿をしたり性○をしたりともうメチャクチャ。それなのに銃を使わないというのが面白いな。瞬時にことを終わらせたくないのかな。これだけ破壊的でいやらしくて人間的なのに、文章がクールなので洒落て見える。今ならずっと指をくわえて見てるしかなかった「クラッシュ」も読めるかな。