すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

黒い画集  (ねこ4匹)

イメージ 1

 

安全と出世を願って平凡に生きる男の生活に影がさしはじめる。"密通"ともいうべき、後ろ暗く絶対に知られてはならない女関係。どこにでもあり、誰もが容易に経験しうる日常生活の中にひそむ深淵の恐ろしさを描いて絶讃された連作短編集。部下のOLとの情事をかくしおおすために、殺人容疑を受けた知人のアリバイを否定し続けた男の破局を描いた『証言』など7編を収める。(裏表紙引用)

 

 

10何年ぶりに松本清張を。10代~の頃耽溺していた作家なのだが、実は短編集を読んだことがない。清張の本領は短編にあると聞いたので評判の良さそうな作品集を探してみた。

 

「遭難」 鹿島槍登山で凍死した男の死の真相を、男の従兄が解き明かそうとする話。
「証言」 不倫中の男が殺人容疑のかかった男のアリバイを証言出来ず苦悶する話。
天城越え 30年前天城越えをした男があるきっかけで当時の事件を蒸し返されて…。
「寒流」 銀行員の三角関係。愛人を同級生であり上司の男に奪われた男の復讐。
「凶器」 老人の撲殺事件。容疑はある未亡人にかかったが凶器が見つからない。
「紐」 多摩川の草むらで発見された男の絞殺体。妻のアリバイ崩しもの。
「坂道の家」 地道に商売をやってきた男がキャバレーの女に入れあげてしまい…。

 

全て傑作とは言い難いが、「遭難」の、男が何を企んでいるのかという緊迫感は良かったし、「証言」は言えない理由その葛藤がよく表現されていた。「坂道の家」は転落していく男の、騙されていても止められない激情が痛々しかった。「寒流」は力作だが、オチにがっかり。もったいない。

 

だがこういうジャンルを意図的に集めたのかどうなのか、全体的に不倫のお話ばかりだった印象。二号を囲うのが珍しくもない時代なのか、女性は男性より完全に下だったのだなと分かる内容でちょっと食傷気味。「ギャバジン」「マンボスタイル」「紙入れ」などわからない言葉も多い。それ自体を楽しめと言われればその通りなのだが、まあ確かにそれでもこれだけ読ませるのだから凄いのだと思う。根本的に人間のやることはあまり変わっていないのだし。

 

あと、気に入った作品はやはり100ページ200ページにわたる「中編」に多かった。清張の「短編の良さ」というものはまだまだ感じられていない。次も短編集に挑戦したいがどれがいいか迷うラインナップだ。