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恋と禁忌の述語論理  (ねこ4匹)

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井上真偽著。講談社ノベルス

 

大学生の詠彦は、天才数理論理学者の叔母、硯さんを訪ねる。アラサー独身美女の彼女に、名探偵が解決したはずの、殺人事件の真相を証明してもらうために。詠彦が次々と持ち込む事件―「手料理は殺意か祝福か?」「『幽霊の証明』で絞殺犯を特定できるか?」「双子の『どちらが』殺したのか?」―と、個性豊かすぎる名探偵たち。すべての人間の思索活動の頂点に立つ、という数理論理学で、硯さんはすべての謎を、証明できるのか!?第51回メフィスト賞受賞作!! (裏表紙引用)

 

 

井上さんのデビュー作。いやいや、やはり凄いね。好みだね。こちらは「その可能性はすでに考えた」シリーズではないのだけれど、同一線上の世界観。スピンオフとも言えるかも(こっちが先だが。。。)。

 

本書は4編収録の連作短編集。なんと、それぞれの作品に別の探偵が登場する。第一章の毒殺事件では、花屋探偵と呼ばれる植物知識豊富で鋭い洞察力を持つ藍前あやめが探偵役を務め、事件を推理する。第二章では現役女子大生にして経営戦略コンサルタントにして俺っ子にして剣の達人で名探偵という中尊寺有が登場。第三章では皆さんご存知の(←?)ウエオロ&フーリンが満を持して登場、というふうにまるでメイン料理しか出てこないフルコースのような贅沢ぶり。

 

こうなるととっ散らかってしまいがちだが、語り手の詠彦には天才数理論学者の硯さんという叔母がいる。実は、この硯さんが真の探偵役なのだ。章ごとに出てくる探偵の推理を硯さんが論理学を持って再検討し推理を再構築するというのがこの作品の真の正体なのである。

 

予想通り、硯さんの論理学はハーバード飛び級ですか、というほど訳のわからないものばかり。QEDの薀蓄なんてまだ甘い甘い。シークエント計算だの自然演繹NKだの、凡人には一生関係なさそうな学問がこれでもかと披露され頭痛がすること間違いなし。この論理学がストーリーに関係あるのかというと、あるのかないのかすらわからないという有様。雰囲気づくりということで目を滑らせるぐらいで大丈夫だろう。ちゃんとエンタメ向きに恋愛要素も盛り込んでいるしね。1つ1つが面白すぎて、最終話のどんでん返しが普通に見えてしまったという難点はあったが。

 

この作家の凄いところは、キャラや世界観が確立しているだけではなく、ミステリーとしても十分に楽しめるところ。もちろん普通の人には薦めないが、早坂吝さんと並んでもっと世間に認知されてもいいんじゃないかと思う。イロモノ扱いされるにはあまりにももったいない才能。