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闇に香る嘘  (ねこ4匹)

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下村敦史著。講談社文庫。

 

孫への腎臓移植を望むも適さないと診断された村上和久は、兄の竜彦を頼る。しかし、移植どころか検査さえ拒絶する竜彦に疑念を抱く。目の前の男は実の兄なのか。27年前、中国残留孤児の兄が永住帰国した際、失明していた和久はその姿を視認できなかったのだ。驚愕の真相が待ち受ける江戸川乱歩賞受賞作。(裏表紙引用)

 


話題の江戸川乱歩賞受賞作。ヒット作は文庫化が早くて助かる。あまり乱歩賞は読まなくなってしまったけれど(元々凄く読んでいる訳でもないが…好みではないものが多いので)、これはあちこちで絶賛を聞いていたので楽しみにしていた。

 

主人公が盲目の老人という前知識はあったが、テーマが中国残留孤児だというのは読み始めてから知った。知らなかった事も色々あり勉強になった。盲目という設定と合わさって、本来なら重く苦しいお話に成りかねないが作者の文章が平易なため読みづらい、疲れる、ということはなかった。内容については、後半明かされる驚愕の真相が全てだと思う。伏線回収も見事だし、何よりトリックに重きを置くあまりストーリーがおざなりになる作品とは違い物語に奥行きがあって感動さえした。こういうテーマで心温まる作品というのはあまり出会ったことがなく、それも驚きの要素に加わったかもしれない。

 

欲を言えば、登場人物の描写が甘いと思う。ストーリーを動かすためや理由をつけるために登場させた人物の行動や言動に「そんなこと言う人いる?」と思うようなシーンが多々あるし、個人的理由で腎臓移植についてはかなり苦々しく思う部分もあった。それを差し引いても素晴らしい力作だと評価するが、今後作家読みするかどうかは保留。