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船上にて  (ねこ3.7匹)

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若竹七海著。講談社文庫。

 

“ナポレオン三歳の時の頭蓋骨”がなくなり、ダイヤモンドの原石も盗まれた。意外な盲点とは―表題作「船上にて」。屋上から突き落とされたOLのダイイングメッセージの皮肉を描いた「優しい水」。五人が順繰りに出した手紙の謎に迫る「かさねことのは」など8編を収録。著者自らが選んだミステリー傑作短編集。(裏表紙引用)

 


久々に若竹さんを。本棚整理してたら見つけたのだけど読んだ覚えがなかったので^^;様々な趣向の作品を寄せ集めた、若竹さんの自選短編集、8編収録。

 

「時間」
交通事故で車椅子生活を余儀なくされた女性が亡くなった。彼女の親友だった女性が明かした事故の真相とは。。。「人格者で通っていた人間が実はそうではなかった」という、若竹さんお得意のもの。

 

「タッチアウト」
姉妹の姉のほうに恋焦がれた男はストーカーを繰り返した末、その姉に撲殺されかかってしまう。。。典型的な入れ替えものだが、男と姉の運命の皮肉が小気味良く(悪く?)表現された一品。

 

「優しい水」
会社で嫌われ者の男に突き飛ばされビルから落下したOLの悲劇。こ、これは^^;いい話と見せかけてのどんでん返し。若竹さんらしいと言えばらしいが、人が悪かろうが良かろうが残酷だね。

 

「手紙嫌い」
手紙が大嫌いな志逗子が手紙を書くことになった。そこで古本屋で「手紙文例集」を購入したが。。。凄い本だなコレ^^;脅迫の手紙とか事件予告の手紙とか。こんなもんに文例があったら怖すぎる。ホラー的オチもきいている。これが一番好きかな。

 

「黒い水滴」
死んだ男の五番目の妻だった女は、義理の娘に会いに海外から帰国する。そこで暴かれた事実とは。ミステリ仕立てとなっていて、人間関係の難しさ、傍からではわからない心の複雑さがうまく表現されていると思う。

 

「てるてる坊主」
文筆家の女性が泊まった旅館には幽霊が出るという。女性を巡る、人生に深く関わった2人の男性に思いを馳せるお話。結構動きのないおとなしいお話かと思ったが、ラストの1行でお話にタイトルが付いた印象。凄いね。

 

「かさねことのは」
様々な相手へ宛てた、様々な人々の書いた手紙。そのやり取りから真相を導き出すお話。ちょっとかなりややこしいが、この人の手紙は実はこの人が書いていてこの手紙は本当はあの人に宛てたもので、と複雑。

 

「船上にて」
いきなり毛色の全く違うお話。ニューヨークに滞在していた男と、船上で出会ったアメリカの紳士が知り合って色々と過去の事件を告白していく。割れた頭蓋骨や紛失した金庫の中身などなど謎の深いものが多く楽しめる。ラストに大きなお遊び的真相が隠されているのがミソ。


以上。ホラーテイストのものが中心で、それらをミステリで挟んでいる感じ。どちらも若竹さんらしく人間の心の闇や真実の姿を描き出していて面白く読めた。ちょっと酷過ぎないか?というレベルのものもあるのはご愛嬌。