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夜よ鼠たちのために  (ねこ4.4匹)

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脅迫電話に呼び出された医師とその娘婿が、白衣を着せられ、首に針金を巻きつけられた奇妙な姿で遺体となって発見された。なぜこんな姿で殺されたのか、犯人の目的は一体何なのか…?深い情念と、超絶技巧。意外な真相が胸を打つ、サスペンス・ミステリーの傑作9編を収録。『このミステリーがすごい!2014年版』の「復刊希望!幻の名作ベストテン」にて1位に輝いた、幻の名作がついに復刊! (裏表紙引用)

 


連城さんの復刊短篇集。同タイトルの新潮文庫講談社文庫の「密やかな喪服」を底本とし、さらにハルキ文庫として同タイトルで発刊されたものを再編集したものらしい。綾辻行人氏の「必ず読むべき名作」の紹介文に影響されこちらを手にしてみた。2作目の挑戦となる。

 

「二つの顔」
自宅で妻をたった今殺害し埋めたばかりの男。だが、同時刻妻はホテルで自分がやった同じ方法で殺害されていた――。のっけから凄まじくややこしい真相である。「信頼出来ない語り手」という立ち位置を維持したまま、「主人公の妄想」という落としに持って来ないところに技術力の高さを感じる。

 

「過去からの声」
元刑事の青年からベテラン刑事へ捧げる手紙、という形で物語は始まる。手紙には、二人が関わったある誘拐事件について詳しい告白が記されていた――。思わずこんなバカな、と漏らしてしまう誘拐方法である。現実的ではないが、その真相には唸らされた。

 

「化石の鍵」
アパートの管理人が面倒をみている車椅子の少女。両親は離婚し父親が娘を引き取っていた。ある日その少女が絞殺されかかってしまう。家の鍵は交換したばかりで、入れる人物は自分と息子だけのはずなのだが――。これまた技巧を凝らした真相なのだが、悲しさもつきまとう。ホっとする結末ですらも。

 

「奇妙な依頼」
興信所調査員の男が受けた依頼は奇妙なものだった。よくある妻の浮気調査かと思いきや、その妻は全く浮気をする気配がなく――。ここまで入り組んだ依頼があるだろうか、と呆れるぐらいの真相である。二転三転どころではない。どんでん返しの醍醐味を味わえる作品。

 

「夜よ鼠たちのために」
孤児院で育った男は、8歳の頃大切なペットの鼠を同じ境遇の少年に殺された。男はナイフで少年に切りつけ怪我を負わせたが、その後2人は親友となる――。この作品は二度読みしたほうが良いかもしれない。人間関係が複雑で、その複雑さが真相を混乱させる。現実にこの方法がうまくいくとは思えないが。
表題作だけあって、ミステリ的にもドラマ的にも読み応えがあった。自分でも復讐したいわ、これ。

 

「二重生活」
簡単に言えば「W不倫」のお話である。そこから発生する妬み、そねみ、欲望を極限まで描ききったミステリと言える。これも人物表を用意したほうが良いかも。

 

「代役」
人気俳優とその妻が計画した、替え玉作戦。仮面夫婦となった2人の間にはおぞましい謀略があった――。そのままで十分スリリングだったのに、やはりどんでん返しが普通じゃない。個人的には妊娠を軽く考えすぎるこの妻の言動にイライラしてしまったが、結末はそれを忘れされる程ややこしい。

 

「ベイ・シティに死す」
暴力団に所属する男は、信じていた恋人と舎弟に裏切られ、殺人犯として服役した。やがて出所の日となったが――。暴力団という時点で同情のドの字もないと言えば身もフタもないが。。。彼らにも人間の感情があり、信頼というものはあるようで少し悲しい結末だった。

 

「ひらかれた闇」
元高校教師の女のところへ、元教え子から助けを求める電話がかかってきた。不良グループの1人が殺害されたと言うのだ――。苦笑が止まらないほどザ・80年代の世界である。「カミソリのマサ」って^^;今までの作品と違い登場人物が幼いためか、犯した犯罪もそれなりに理解不明の動機である。


以上。

 

今までなぜ読んでいなかったのかと悔やむほどの作家である。傑作集と言えどハズレ作品が1つもなく、そのレベルは今のどんなミステリ作家でも敵わないのではないかと思う出来だ。難を言うならば、不倫や暴力団、不良など、自分とは関係のない世界の物語が多く人物に共感がしづらい。(人間を描けていないわけではない)構造的にはドストライクなのに世界観が好みと一致しないのが残念なところか。

 

よって、共感を得たい読者やドラマ的読後感を求める者、本格ミステリを読み慣れていない者にはこの著者は合わないかなあと思う。どうすごいのか、その比較対象がある程度は必要、さらに人物メモをいちいち取らないと頭を使わされる作品が多い。この作者を楽しむコツは、リアリティのなさや時代背景の古さを華麗にスルーし、どんでん返しや論理のみに脳みそを集中させることだろうな。