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おとぎのかけら  新釈西洋童話集  (ねこ3.6匹)

 

本当に幸せなのは誰か? 現代のおとぎ話7篇
シンデレラ、白雪姫、みにくいアヒルの子など代表的西洋童話を現代日本に置き換えた短篇集。童話の結末に疑問を抱く著者が見つけた、それぞれのハッピーエンドとは? 泉鏡花文学賞受賞後第一作。


デビュー作「魚神」がとても良かったのでこちらも読んでみた。
編集者が選出した西洋童話7編を、千早さんが現代風にアレンジし新釈西洋童話として描かれたもの。オリジナルの残酷さを生かし、作者の着想を加えたなかなか淫靡で毒のある良い作品集に仕上がっている。


「迷子のきまり」 ヘンデルとグレーテル
母親に虐待されている兄と妹が、母親から逃げるために立てた作戦とは。
痛ましい環境に置かれる二人の子供、心情的には逃げ切って欲しいと思うのだがどこにでも悪意は潜んでいるってこと。展開としては気に入っているが、作中にネタをばらさないで欲しかった。よってオチが弱い。

 

「鵺の夜」 みにくいアヒルの子
心を病み会社をズル休みした青年。その日に再会した小学生時代の友人。彼は苛められっ子で、青年は彼にあることで引け目を感じていたのだが。。
因果応報の話だろうか。青年自身が大きなコンプレックスを抱えているところが物語作りとしてしっかりしているなという印象。

 

カドミウム・レッド」 白雪姫
画家を叔父に持つ、美大で事務職に就いている女性。叔父のモデルをやることになったが。。
女の嫉妬をモチーフにした作品。語り手の女性の性格がなんだか「私は世の中の全てを知っています」みたいな感じで嫌だった。

 

「金の指輪」 シンデレラ
語り手は生まれながらにしてお金持ちの青年。幸せとは何か?ピアノのレッスンに通っていた昔に出会った忘れられない少女。彼女の残した指輪はとても小さくて。。
これって、元のお話がかなりエグかった気が。。ガラスの靴に足を入れるために足指を切ったりしてなかったっけ。それと比べてしまうとハートウォーミングに読めてしまう。まあ、良かったじゃない。

 

「凍りついた眼」 マッチ売りの少女
売春宿で働かされている少女。うっかり客として紛れ込んでしまった男は、老婆のある言葉を切っ掛けに覗きを始め。。
これも原作は本当はこういう設定なんだよね、たしか。作者のオリジナルとしては一番ノレている作品じゃないかしらん。鋏の客コワイわ。病気だ。残酷であり、美しくもあり、禁断の世界として全て表現しつくされたいい作品。

 

「白梅虫」 ハーメルンの笛吹き
彼女と同棲中の男が出会った、カフェ店員。梅についた虫を切っ掛けに接近した二人だが。。。
浮気男の末路はいかに、ってところかな。普通に現代にどこにでも転がっていそうなうんざりする話に、梅についたキモイ虫の恐怖と女性の恨みつらみが加わってなんとも不気味な仕上がり。おおこわ。


「アマリリス」 いばら姫
職場を退職した女性と、同居中の認知症の祖母。よく眠る祖母を心配しつつ、不倫続行中の彼女が祖母の人生を通して出した答えとは。
いばら姫って、これだけ元を読んだことないなあと思っていたんだけど。。「眠り姫」のことだったのね~^^;それなら100回は読んでた。てか、私が持ってた本ではいばらじゃなくて糸巻きみたいなやつが刺さるって展開だったからわからなかった^^;
女性の話についてはナンノコッチャカッテニヤレなんだけど、祖母の思い出とそれが叶うくだりは素敵だったな~^^



以上~。
期待していた感じとは違ったのだけど、西洋童話大好きだったしなかなか懐かしい気持ちになれたな。短編より長編のほうが好きだったけど。。なんか流れはいいのにパンチが弱い(余韻が残らない)ものが多かった。「だから?」みたいな。そもそも、子供のころ何百回も繰り返し読んだ物語を越えるはずはないし、子供用でない本当の残酷物語のほうも結構有名になっているのだから、そっちのインパクトに比べたら、ねえ。でも、現代風の読み物としてはなかなかなので人には薦めやすい。(←無難って言いたいんだけどね)