すべてが猫になる

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ミドルセックス/Middlesex  (ねこ4.5匹)

ジェフリー・ユージェニデス著。早川書房


デズデモーナとレフティーは姉弟でありながら、深く愛し合っていた。1922年、ギリシャとトルコの戦争で村が壊滅し、二人はいとこ夫婦を頼りにアメリカ、デトロイトへ夫と妻として渡る。やがて、二組の夫婦の子供、ミルトンとテッシーが惹かれ合うようになる。1960年、そこに生まれた待望の女の子がわたし、カリオペだ。車産業が隆盛を誇る街デトロイトで、祖父が始めた食堂を父が繁盛させ、わたしは大事に育てられた。女子高に通うようになったわたしは、自分の体つきに悩み、ある同級生への熱い想いに苦しんでいた。そんなある日、自分がふつうの女の子ではないことを知ったわたしは、激しい衝撃を受け、家族のもとを飛び出すが……。あるギリシャ系一家が紡いできた稀有な歴史を壮大に描く、現代の神話。
男と女、二つの性を授かった一人の人間の数奇な運命を描くピュリッツァー賞受賞作。





またbeckさんのおすすめ(るん^^)。単行本700数ページの大作だったけど、するする読めたぞ。本書は文学者や作家や新聞社や各方面から大絶賛され、世界12カ国で翻訳されたベストセラーらしい。

主人公(語り手)が近親相姦による半陰陽者として生きた壮絶な人生。語り手カリオペは、「男性」の立場として、祖父母の熱愛から両親の誕生、そして精子はたまた子宮にいる状況から客観的に自分の存在を回想するというかなり変わった手法だ。祖母であるデズデモーナとレフティーがお互いのいけない感情に気付き、戦争が起こり、アメリカに逃げて、結婚して、子供が生まれて、その子供がいとこの子供と結婚する。元々女の子としてヨーロッパ(ドイツ?)で育ったという主人公が、男性として生まれ変わる物語は本の中盤を過ぎてからようやく始まる。

この三代にわたるギリシャ系一家の壮絶な物語、エピソードの1つ1つをここですべて語ることは出来ないが、どのページをめくっても無駄がない、どこを読んでも面白い、この本に出てくる全ての登場人物が個性的で嬉しくなってくる。何より文章が楽しい。レフティーが結婚相手を選ぶ判断基準がグラビア雑誌のポーズであったり、死ぬ間際にデズデモーナを姉さんと呼んだりとか、年代が変わるごとに忘れかけていた人物がとんでもない犯罪を犯したりとか。カリオペの語り口に特徴があるのが効果的というのもあるけど、ちょこちょこ挿入される現在のカリオペと新恋人の進展も引っ張るわ引っ張るわで、まあほとんど後半までカリオペ自身の話には触れられない。読者としてはそこが気になるところなのにやり方がうまいね。そもそも宗教の問題とか時代背景とかを考えると、昔の人のほうが現代人からみて「おかしい」のは当然のことで、一番の変わり者であるはずのカリオペは「イマドキ」の考え方に近い気がする。カリオペから見れば、お前らのほうがよっぽど変わってたよ、ってところじゃないのかしら。なんにしても、日本の感覚では絶対触れられない価値観、面白さであることは間違いなくて、全編クライマックスって感じが年代記の醍醐味かもしれない。

まあ、当然翻訳ものを読む上での試練として宗教観の違いや固有名詞がピンと来ない(注釈が多い)、歴史的背景は知ってた方が良かったりはするのだけど。この面白さには敵うものはなかなかない気がする。
大満足の1冊です。