すべてが猫になる

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ある少女にまつわる殺人の告白  (ねこ3.7匹)

佐藤青南著。宝島社。

 

長崎県児童相談所の元所長らが語る、ある少女をめぐる忌わしい事件。10年前にいったい何が起きたのか。様々な証言が当時の状況を明らかにしていく……。2011年「このミス」大賞優秀賞受賞作。


「このミス」大賞作品はかつて4、5冊ほど読んだことがあるが、どうにも肌に合わないものが多くいつの間にか疎遠になっていた。が、先日べるさんにこの作品のことを教えてもらい興味を持ったので挑戦してみた次第。インタビュー形式のミステリーということで、児童虐待、しかも児童相談所の実態にまで切り込んだ内容ということで読む意義を感じたというのもある。なるほど、確かに一気読みさせる筆力はある。方言も自然で語り口にリアリティがあり、実際私達が目にする痛ましいニュースの実態は実はこうなのかと思わせるだけのものがある。確かに最近の児童虐待死のニュースの多さには目を覆うばかりだ。判で押したような「母親と義理の父親」「加害者の虐待経験」の図式に、普通に生きている私達は日々の平穏を感謝し、画面の向こうにいる可哀想な子供にただ胸を痛める。なぜ、近所の人や学校が気付かない?児童相談所はなぜすぐに動かない?傍観者として当然思い至る疑問の、答えはここにはない。が、悪循環とはどういうものか、負の連鎖とはどういうことかをこの本とともに追体験することは出来る。痛ましいばかりの物語であるが、手に取るだけの価値のある作品。


以下は、ネタバレにて感想を。基本、自分の紹介する本を1人でも多くの方に読んでもらえたら、という気持ちも少しはあるものであまりこういうことはしたくないのですが。この作品に関しては、どうにもネタに触れなければ書きようがないためご了承下さい。
















最後まで読んで思ったこと。

 

「取材頑張った賞」止まりかな、と思った。読み物、そしてミステリーとして評価するならば、タイトルがネタを割っているのがまず残念。私個人としては亜紀ちゃんが殺人を犯した、と最初に捉えてしまったためそれほど意外な真相でもなかった。虐待が虐待を生むことの知識だけはどこかにあったため、こうなってしまうだろう、という予想の範囲内。それを言うなら、事前の「杉本の母親に預けてしまった」という展開のほうがスリルを感じた。

 

また、どうしても自分は亜紀ちゃんは被害者としか思うことが出来ない。将来の亜紀ちゃんをこの物語の「母親」として描くならまた違っただろうが。一番許せないのはもちろん杉本だが、母親への嫌悪も私は相当のものだった。しかし、これはまた今の自分の立場だから言えることであるなというのも分かっているつもり。

 

そして、選評。「大賞でなく優秀賞であることが納得出来ない」というような趣旨の意見が見られた。これまた私個人の意見でしかないが、「妥当」だと思う。それはインタビュー形式の小説が珍しくはないことやストーリー展開に既存を打ち破るようなものがなかったことからそう感じた。この方向性だけで生き残るのは難しいのではないだろうか。