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人魚は空に還る  (ねこ3.8匹)

三木笙子著。創元推理文庫

 

富豪の夫人の元に売られてゆくことが決まった浅草の見世物小屋の人魚が、最後に口にした願いは観覧車へ乗ることだった。だが各車が頂上に辿りついたとき、人魚は泡となって消えてしまい――。心優しき雑誌記者と超絶美形の天才絵師、ふたりの青年が贈る帝都探偵物語。明治の世に生きる彼らの交流をあたたかに描いた、新鋭の人情味あふれる作品集第一弾。表題作を含む五話収録。(裏表紙引用)


べるさんのところでこのシリーズの記事を読むたびに、ゼヒ読もう絶対読みたいとワクワクしていた本書、待望の文庫化。まあその、イラストが好みだったというのが大きいのだけど、タイプの違う美形二人の探偵ものと聞いては黙っていられない。念のために言っておくが、私はBLが好きなわけではない。表紙絵+美形と聞いて誤解される向きもあるかもしれないが、間違ってもBLではないことは保証する。


さて、本書を読み始めて恐らく多くの方が「アレ?」と思われるであろう、ミステリとしては珍しい設定が一つある。別にBLのことではない。美しい容姿に素晴らしい絵の才能を持ち、定番通りにナルシストで辛口のキャラクター、礼がホームズ役ではないということだ。繊細だがわがまま、ツンデレと三拍子揃ったこの青年、おあつらえ向きに大のホームズファンで、原書を訳してもらうために雑誌記者高広と友人になるという飄々とした魅力の持ち主。いかにも探偵役向きだと思うのだが、作者は礼をワトスン役に配置することで彼を守った。しかし真の探偵役・高広もなかなか負けてはいない。礼の才能に憧れ、平凡な自身を卑下しながらも仕事はコツコツとこなす努力家。意外にも腕力に優れ、その頭脳は決して非凡ではない煌きを宿す。この二人が組めば鬼に金棒!


・・・と思いきや、読み進めるうち礼の存在が薄くなって来てはいないか。やはりミステリは適材適所というものがあるのかもしれない。BLというほどキャラも立ちきれておらず、ミステリというほど技巧にも走っていないため全体的に薄味。期待していた二人の関係も友情の枠から全く逸脱しない。そりゃ当然だ、だってBLではないのだから。いやしかし、まだシリーズ1作目。今後どのような進展があるか見もの。このつかず離れずの距離感がまた爽やかでクセになることも考えられる。BLではないのだが、女子に密かな人気を得られそうだ。

 

うーん、3作目まで出てるようだが。。私、文庫化待てるかな^^;