すべてが猫になる

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閉ざされた夏  (ねこ3.5匹)

若竹七海著。光文社文庫

夭逝した天才作家の文学記念館で、奇妙な放火未遂が相次いだ。和気あいあいとした記念館の雰囲気は一変し、職員たちの言動にもおかしな様子が……。新入り学芸員とミステリ作家の兄妹が、謎を追い始める。そんな折り、同僚の一人が他殺体で発見された!事件を解くカギは、天才作家の過去に!?ユーモラスでいて切なくほろ苦い、傑作青春ミステリ。(裏表紙引用)


没故作家の文学記念館が舞台で、主人公はそこの新人学芸員。なかなかに変わった設定。
鼠や書類鞄が燃やされたり、犯人の回想が挟まれたりする中遂に殺人が起き・・・と徐々に展開が大きくなっていくあたり、取っ付きにくさを若干感じる設定でも興味を引きつけさせる。さらにここが若竹作品の魅力の一つでもあるわけだが、キャラクター一人一人が個性豊かでいかにも「キャラクター的」だ。恐らく多くの読者は「学芸員」ではないわけだから、こういう職業の人ならこういう人が居てもおかしくないかもしれないな、という絶妙な距離感でリアリティを保っている。

作風は一見ほのぼのした雰囲気だったのだが、殺人が起きてから「ほのぼの」して見えた学芸員たち一人一人に不審さが見え始めるあたりがこの作品の一番の肝だろう。よく知っているつもりの人間が、自分の全く知らない一面を持っていたり、まるで違った本性を見せたり。自分は職場で「よく知る」ほど人間関係を深めることはあまりないので、たとえば親しくても私が本を読むことすら知らない人だって居る。だから相手にも同じように自分の知らない面があって当然だと考えているのが常なのだが。

まあそれはそれとして、若竹さんが得意とする人間の毒や秘密の要素を遺憾なく発揮している作品と言えよう。後味は決して良くはないし題材自体万人向けではないが、人間として共感できるそれがあれば必ずファンはつくからね。