すべてが猫になる

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キングの死/The King of Lies  (ねこ3.9匹)

ジョン・ハート著。ハヤカワ文庫。

失踪中の辣腕弁護士が射殺死体で発見された。被害者の息子ワークは、傲慢で暴力的だった父の死に深い悲しみを覚えることは無かったが、ただ一点の不安が。父と不仲だった妹が、まさか……。愛する妹を護るため、ワークは捜査への協力を拒んだ。だがその結果、警察は莫大な遺産の相続人である彼を犯人だと疑う。アリバイを証明できないワークは、次第に追いつめられ……。スコット・トゥローの再来と激賞されたデビュー作。(裏表紙引用)


話題となった「川は静かに流れ」の作者、ジョン・ハートに初挑戦。思いのほか分厚い本が届いたので一週間以上この本にかかりきりになってしまった。本書は弁護士が主人公であるがいわゆるリーガル・ミステリではない。話の体裁はサスペンスだが、この作品を長~~いものたらしめている原因のひとつであるヒューマン・ドラマに重きが置かれている。

父親に職業も配偶者も決められ押しつけられて育った主人公が、母親の死をきっかけに家族が崩壊するさまを見つめ、その父の死が最愛の妹の仕業であると疑ったところから物語が動き出す。妹のために自身に疑いを向け真実を話さない。警察や検事、妹の恋人、四面楚歌の状況で一人自身の人生の再生と精神的弱者である妹の幸せだけを考え行動して行く。探偵や友人などの少数の味方の力も借りる。そしてあぶりだされる亡き父親の姿は語るだにおぞましく、単なる家族の諍いのレベルの問題ではないことがわかる。

語り口は簡素だが、端々に表現される比喩や言葉の選択などには非常にセンスを感じるためすらすらと読めた。ミステリ的に読むならば意外と「そんなところから」な真相であるし、真相解明後の人間関係があまりにもやすやすとまとまって行くためそのあたりが不満と言えば不満。それほど主人公の心に入り込んでのめりこむタイプのものでもないが、このクールさが現代風であり魅力かもしれない。

(600P/読書所要時間4:30)