すべてが猫になる

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スメラギの国  (ねこ3.5匹)

朱川湊人著。文春文庫。

志郎が新居に決めたアパートの前には、猫が集まる不思議な空き地があった。その猫たちに構うなという大家の忠告に反し、志郎は空き地を車庫がわりに使い、捨て猫を飼いはじめる。だが、それが彼の幸福な日常を一変させる。愛するものを守るために凄惨なまでに闘う人と猫。愛と狂気を描く長編ホラーサスペンス。 (裏表紙引用)


朱川さんの長編って珍しいよね。しかもかなりの大長編だし。表紙にはカワユイ猫ちゃんがたむろってるし、結構わくわくで読み始めたのだが。

これは、猫好きが読んではいけない本だった。
地味で保守的で全く面白味と魅力のない主人公もいただけないが、あまりにも猫の惨殺シーンが多すぎやしないか。志郎の視点では猫が全くの悪役となっているし、彼が経験する恐怖は想像にあまりあるとは言え、どうも自分には作者が喜んでこういうシーンを描いている姿が目に浮かんでしまっていけない。猫を飼っていなければ知り得ない知識も数多く記述されているため、もしかしたら猫好きなのかもと思わせるが、熱心に資料を読めば書けるかもしれない。が、自分の個人的な見解でしかないが、自分が作家だったら、猫の惨殺シーンなんてとてもじゃないけど描けないと思うのだ。ただ、自分の狭い視界だけで「これは猫の惨殺ものだからダメ」と否定するつもりはない。それを補えるほどの面白さや意義を感じられるなら、想像の世界ならアリだろう。この作品に関してはその部分が物足りない。

構成としては志郎、息子を交通事故で失った志郎の上司、猫の3視点が交差する。結局のところどの視点であれ結論は「親の愛」なんだろうが、志郎の中途半端に不幸な家庭環境やファンタジーで片付けられてしまった上司や志郎の婚約者の理不尽な運命、それぞれが行動ではなく流れるままに。これでめでたしめでたしとか言ってられるのは、殺したのが猫だったから。人間だったら起こり得なかったとすれば(ホラーなんだから可能なはず)、この主人公、心のどっかは冷静なんじゃないだろか。

(546P/読書所要時間4:00)