すべてが猫になる

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チャイルド44/Child 44 (ねこ4.4匹)

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トム・ロブ・スミス著。新潮文庫

スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、あるスパイ容疑者の拘束に成功する。だが、この機に乗じた狡猾な副官の計略にはまり、妻ともども片田舎の民警へと追放される。そこで発見された惨殺体の状況は、かつて彼が事故と遺族を説得した少年の遺体に酷似していた…。ソ連に実在した大量殺人犯に着想を得て、世界を震撼させた超新星の鮮烈なデビュー作。 (上巻裏表紙引用)


2009年「このミステリーがすごい!」海外部門1位の作品。

舞台は1950年のソ連ですが、実話である52人少年少女殺害事件を元に書かれたもので、実際のそれは80年代に起きた事件だそうです。私達が生きて来た80年代としてこの作品を読むよりも、50年代として読む方が小説的なリアルさがあるという事でしょうか。ソ連というのは個人的によく分からない国です。ロシアの下の方にある独立したごちゃごちゃ密集している国とか全然分からないもの^^;一応史実そのままを描いてはいないそうですが、まあ詳しくなくても物語は楽しめます。上巻はまだスターリンが生きていて、当時のソ連の酷い実態を国家保安省のレオと妻ライーサの立場から描かれています。とにかく上がスパイと決めたらそいつはスパイで、1度逮捕したら釈放されない。その家族も苛酷な生活を余儀なくされるという。その犠牲となるのは高齢者や子供達も含まれていて、犯罪が横行しない国だという建前の元に、毎日何人もの屍がソ連の地に横たわるわけです。
めちゃくちゃな政治ですね。失敗して当たり前。とは言いつつも、現在ロシアでは本書が発禁となっているそうで。今となっても余韻を引いているのでしょうか。。

さて、そうは言っても本書はエンターテイメントですから、堅苦しく読まなければならない作品ではありません。文章はかなり読みやすく、登場人物達の描き分けも見事。構成も細部までしっかりしています。下巻はまさにハラハラドキドキのサスペンスという趣き。レオとライーサの夫婦愛もただベタなものではないのです。一度はお互いを裏切ろうとするのですから。諸悪の根源と言える事件が発生し、それをきっかけにレオの部下であるワシーリーがとにかく悪質に陰険に彼らを追い回して行きます。

ミステリ的な意外性もあり、この時代に生きた彼らすべての感情や性格の形成が深みを与えていて、そんじょそこらにはない面白さの詰まった作品。上下巻と聞くと長いですが、一気に読めます。