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鬼の跫音  (ねこ4.2匹)

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道尾秀介著。角川書店

心の中に生まれた鬼が、私を追いかけてくる。―もう絶対に逃げ切れないところまで。一篇ごとに繰り返される驚愕、そして震撼。ミステリと文芸の壁を軽々と越えた期待の俊英・道尾秀介、初の短篇集にして最高傑作。 (あらすじ引用)


道尾さん初の短編集です。
以前アンソロジーで読んだ「流れ星」入ってないんですね。良かったのにな、あれも。

今作はホラーミステリという道尾さんお得意の作風です。ホラーは好きなのだけど、道尾さんのホラーのシリーズはあんまり。。。という自分ですが、この作品は大変気に入りました^^どこか幻想的で、恐ろしくて、お話の結び方も秀逸な作品ばかり。

『鈴虫』
息子が学校で貰って来た鈴虫。父親には鈴虫にまつわる秘密の過去があるようだ。。
サスペンスと鈴虫をモチーフにしたホラーが融合して良い感じです。仕掛けも上手く、一編目にふさわしい作品。

『ケモノ』
刑務所作業製品である椅子に、受刑者が彫ったとおぼしきメッセージが。。。
メッセージを解いて行くミステリらしい作品なのですが、ラストで驚愕します。

『よいぎつね』
度胸試しと称して祭りの日に少女を襲う計画を立てた不良グループだが、実行するのは白羽の矢が当たった少年只一人。彼は当初その計画を嫌がるのだが。。
少年は一体20年前に何をしたのか?複雑怪奇な真相です。普通にこれだという解釈は出来るのですが
そこを曖昧にするあたりかなり不気味なお話になっていますね。

『箱詰めの文学』
作家である主人公のアパートに、自称泥棒の青年が訪ねて来た。持っていなかったはずの貯金箱にはどんな秘密が。。。
よく見かける設定のものなのですが、道尾さんの手にかかるとこれまた複雑に糸の絡まり合った作品に仕上がりますね。

『冬の鬼』
比較的短い作品ですが、「鬼の跫音」というタイトルに最もふさわしい雰囲気です。
残酷な愛のかたちですが、一番文学的な作品がこれ。ラストのモノローグ含め、一番気に入った作品かもしれません。

『悪意の顔』
学校でいじめに遭っている少年は、家の近所に住む女性と知り合うようになる。彼女は頭がおかしいらしく、キャンバスの中に夫が入り込んだと言うのだ。。
Sといういじめっ子の少年との心の交流が不器用に美しく恐ろしく描かれていて、キャンバスの女性と
彼らの身に起きた出来事が見事に作用しあっています。いや、やっぱり一番気に入ったのはこっちかな^^

幻想的なホラーというのはゆきあやが一番はまりやすいジャンルです。読みやすい、コワい、綺麗、文学的。仕掛けはあってもなくても構いません。作家さんなら1度は描いてみたい作風なのではないでしょうか。この作品集は、加えて道尾さんらしい残酷さとミステリ要素がいい味を出していますね。
元々「向日葵の咲かない夏」でファンになった作家さんなので、それほど自分の気持ちに変化はないのかな?