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草祭  (ねこ3.8匹)

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恒川光太郎著。新潮社。

団地の奥から用水路をたどると、そこは見たこともない野原だった。「美奥」の町のどこかでは、異界への扉がひっそりと開くーー。消えたクラスメイトを探す雄也、衝撃的な過去から逃げる加奈江……異界に触れた人びとの記憶に、奇蹟の物語が刻まれる。(あらすじ引用)


かなり皆さんに遅れをとりましたが、読了いたしました^^

今作は5編収録の連作短編集になっております。今まで恒川さんというと中編集しかない、という印象だったので珍しいのではないでしょうか。今作も美しく儚い、郷愁美と幻想美を醸し出した素晴らしい作品ばかり。どの作品にも安定した面白さと完成度があり、実力が伺えますね。

『けものはら』
友人の春と禁断の”けものはら”に入ってしまった雄也。果たして少年は言い伝え通り化け物に変わるのだろうか? 彼らの家庭の事情や少し倒錯しているクラスメイトと幻想的なネタを混ぜ合わせ、少し残酷で趣きのある物語になっています。これはかなり好きかも。

『屋根猩猩
クラスメイトに「黒パン」というあだ名でいじめられている藤岡美和は、ある日不吉な少年タカヒロと出会うが。。。 いじめの黒さと同時に、因果応報という言葉が身に染みる作品です。この年齢の少女にこの仕打ちはやり過ぎな気もしますが、リアルさと怪奇をうまく絡めていますね。これも好き。

『くさのゆめがたり』
叔父を毒殺した過去を持つ少年は、やがてクサナギという秘薬に心を奪われ。。
山賊に出会い、女性を救った事で”テン”の生活は俄にかき曇る。。恐ろしいお話ですが、ラストがいいですね。地名の由来をお話に生かせるというのは恒川さんならではという気がします。

『天化の宿』
”お城のような家”に住む裕福な少女は、父親を虫酸が走るほど嫌う理由があった。。
”苦解き”という、災いを取り払う儀式がキーとなっています。なんだかカードゲームのようですが、どういうルールなんだろう。人間が考えたものとは思えない、ってなんだか興味がありますね。
このお話に出て来るアミさんという嘘つき?の少女の持つ小さな悪意がなんだか哀しいです。若い子ってどうしても更生の余地があるような読み方になるからでしょうか。これも結構好きです。って、全部に言ってる。。

『朝の朧町』
連作らしく、登場人物が重複しますね^^
殺人事件を扱っているので生々しいですが、美奥という土地にしがみつく恐ろしいものや、土地への執着を感じ取れる作品でした。日本のどこかで、今、この土地でこの人達がこうやって生きているような密着感を小説から感じます。一冊の本で一つの世界を創り出す、ってやっぱり凄いですね。


以上~。
たいへん楽しめました。相変わらず作風は変わっておらず、だからこそ満足です。日常の生活感と、空想の怪奇をミックスして独自の空気を作っていますね^^これは「夜市」の次に好きかも。