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聖母の深き淵  (ねこ3.8匹)

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柴田よしき著。角川文庫。


一児の母となった村上緑子は下町の所轄署に異動になり、穏やかに刑事生活を続けていた。その彼女の
前に、男の体と女の心を持つ美女が現れる。彼女は失踪した親友の捜索を緑子に頼むのだった。そんな
時、緑子は四年前に起きた未解決の乳児誘拐事件の話をきく。そして、所轄の廃工場からは主婦の
惨殺死体が……。保母失踪、乳児誘拐、主婦惨殺。互いに関連が見えない事件たち、だが、そこには
恐るべき一つの真実が隠されていた……。ジェンダーと母性の神話に鋭く切り込む新警察小説、
第二弾!(裏表紙引用)



シリーズものは順番通りに読もうという気持ちと共に、「なるべく間を空けないで読もう」という
心がまえも必要でした^^;緑子が子供を持つに至った経緯や過去、緑子を取り巻く人間関係を
完全に忘れ去っており、最初は入り込めなかったです。。。このシリーズは登場人物紹介が掲載
されていませんが、作中でだんだん人間関係や過去の事件がわかるように書かれているので
助かりました。

本書は、警察小説としての出来不出来は自分には判断出来ませんが、まあ、柴田さんらしく
込み入ったエピソードが最終的に繋がり合って行く形になっています。悪く言えば関係ない人間が
関係なかったという事にはならないのが特徴で、動機や人間関係を探って行く事になります。

自分にとって何が良かったかと言うと、やはりまずはトランスジェンダーの磯島豊の存在。
ここ数年、彼女達のような境遇の存在がマスコミに取り沙汰され、自分もあながち全く
知らない訳ではなかったのですが。子供を産む事、女として認知されれば幸せになれると
思い込んでいた彼女が辛い経験を乗り越えようとする様がとても眩しく、普通の女よりも
美しく見えました。
そして、母となった緑子の内面の変化。子供を産む事により、「宇宙と同化する」「世界の
全てを手に入れた気になれる」という表現にただただ圧倒されました。柴田さんも子供の親だと
言う事で、前述したトランスジェンダーの問題は取材力、想像力の賜物であっても、こういう
気持ちは子供を産んだ母親にしかわからない感覚なんだなあ、とショックすら受けました。


とりあえず今回はわざわざ粗探しをする気にはならず^^;、女性にはキツい描写が多いながらも
楽しめましたね。ただ、麻生に恋する射撃の名手・静香の存在は必要あったのかな?と、
それぐらい。
気になるのは、母となり守るものが出来た緑子がこれからどんな試練に立ち向かって行かなければ
いけないのかということ。シリーズが続いているので、心配になります。女が背負うデメリットを
彼女が社会でどう生き抜いていくのか。全ての、子を育てる社会で働く女性読者の応援歌になれば
いいなと思うのですが。