すべてが猫になる

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新世界より  (ねこ4.6匹)

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貴志祐介著。講談社


子供たちは、大人になるために「呪力」を手に入れなければならない。一見のどかに見える学校で、
子供たちは徹底的に管理されていた。いつわりの共同体が隠しているものとはーーー。何も
知らず育った子供たちに、悪夢が襲いかかる!(あらすじ引用)



うっほーーー!!ハードカバー上下巻約1100ページ、遂に読了!なんだか長い夢から覚めた
ような、ぼーっとしたいい気分です^^。
やはり貴志さんは読ませる!これほど長い物語なのに、退屈な箇所がほとんどなく、むしろ
どんどん展開がドラマティックに広がるので夢中になってしまいました。SFというジャンル
なので、どないなもんかと思ってましたけど^^;ほんとはホラー読みたいからねえ、ファンと
しては。「硝子のハンマー」も良かったけど、やっぱりミステリ畑の人じゃないな、と痛感した
結果になったし。3年ぶりの新作ということで、執筆期間も長かったのかなあ。待ちくたびれた
けど、「長いだけ」の中堅作家が一度はやってしまうほどほどの作品だったらさすがに文句も
出ちゃうので、おいらとしてはこの完成度なら満足、満足の大満足です^^
いや、さすがに「黒い家」とか「クリムゾンの迷宮」レベルの良さを期待されるとまずいかも
しれませんが、アレはいくらなんでも「良すぎるにも程がある」作品だと思っているので^^;


全部読んでみての感想は、意外にも風刺色が強いというのか、メッセージ性のきつい作品だったん
だなあ、という事が一点。ラストの展開は間違いなく読者と早季の心を結びつける手法です。
元々、バケネズミやある悪の種族について思うところがあったのですが、最後の早季の
「何が正しいのかわからない」の言葉で自分がこの作品と相性がぴったり合ったのだと
強く思いました。答えは出ないけれど、早季の行動や心理は良い作品として必然的なものだと
考えています。

いきなりラストについて語ってしまいましたが、^^;前半の「全人学級」での授業の
面白さ(かなりハリー・ポッターとかぶったけど)や、この世界で奨励される同性愛の
緊張感やときめきは読んでいる自分にはかなり興奮度が高かったです。そこが一番気に入った
要素かもしれない。。。実は、おいらは恥ずかしながら早季や覚と同じ「彼」に恋してしまって
ました^^;これ、子供だからいいんだよね。大人でああいうシーンをやられたらちょっと
気持ち悪さが先に立つ^^;;
なので、下巻に入ってからの展開は本当にショックでした。。そこからラストに進むにつれて
希望が出て来るのですが、まるで自分の願いが物語に通じたような恍惚とした気分に。

あとは、”喋る図書館”ミノシロモドキが良かったですね。ここが貴志さんの手腕だなあと
思うのですが、きっちりユーモアも入ってる。やたら人間くさくて愛着を持ってしまいます。

前半で思っていたのは、対人での殺しや暴力のない、本来なら今の私達が理想とする世界が、
実際そうなってみるとこんなにおかしいのか、という事の矛盾についてです。管理社会が
反逆を生み出す事は常識だと思うのですが。自分が読んでいるのは愚かな人間の姿なのか、
頭脳の発達と引き換えに失わなければならないものは本当にこれなのか、という思いが
離れませんでした。対人、と書きましたが、この物語のテーマは生き物全てに対しても
放たれていますよね。そこで、前半で考えていた事が所詮は自分の欺瞞だったのか?とも
思えます。上巻で自分が考えていたのは人間の事だけでしたから。


これは是非皆さんに読んでいただきたい。傑作かどうかの判断は個人に委ねますが^^;、
分厚いからと見送ってしまうのはもったいないかなあ、と。誰でも楽しめる作品であると
思いますよ~^^