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空飛ぶタイヤ  (ねこ3.9匹)

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池井戸潤著。実業之日本社


トレーラーの走行中に外れたタイヤは凶器と化し、通りがかりの母子を襲った。タイヤが飛んだ
原因は「整備不良」なのか、それとも……。自動車会社、銀行、警察、週刊誌記者、被害者の
家族…事故に関わった人それぞれの思惑と苦悩。そして「容疑者」と目された運送会社の社長が、
家族・仲間とともにたったひとつの事故の真相に迫る、果てなき試練と格闘の数ヶ月!(帯引用)




直木賞候補となったが日の目を見なかった傑作、という事で、先日べるさんのところで熱い記事が
アップされていた。その書評の熱意にやられ本書入手の手回しをしている方も多かろう。
確かにこれは良い作品だった。すぐにでもべるさんにお礼を言いたいが彼女は今、目下
パプアニューギニアだかニュージーランドだかに逃避行中である(でたらめ)。
無事のお帰りを待つ。

結末の予想をするのが凄く容易い作品なのだが、ここに出て来る登場人物達、悪の側も
弱者の側も(正義と言うには語弊を感じる)とにかく熱い。もちろん私も主人公である
赤松社長目線でがっつり読ませてもらったのだが、自分が少し読み方が違ったかな?と
思ったのは、赤松社長と共に泣き、笑い、闘いながら、冷静な自分が「男の人っていいな」と
少し羨望のような気持ちを抱いていたこと。出来る事なら自分も赤松運送の社員となって
この真っ直ぐな社長を励ましたり、隣で一緒に泣いたり、ホープ自動車の「連中」に
怒鳴り込んだりしたかったな。事故の重大さは小説内で描かれているので敢えて
語らないが、「敵」の銀行や会社含めて誰もが必死で生きているという事だろう。
ホープの幹部達には贈る言葉も何もないが、自分のぬるい境遇を顧みるとエラそうな事も
言える心境ではない。

ハードカバー二段組、約500ページの大作であるが退屈する暇はなかった。
この作品に涙し、怒り、喜びを自分の事のように感じた人は真っ直ぐで綺麗な心を
お持ちなのだろうと思う。自分はどこにいるのだろう。何かを置き忘れている一人なのだろうか。
でも何を?