講談社文庫。
御手洗潔シリーズ第三弾。実質的には御手洗潔最初の事件。
ある日、男がベンチで目覚めると記憶を失っていた。そして知り合った
一人の女性。二人は互いに惹かれ合い、同棲を始める。
しかし、失われた過去の記憶がじわじわと思い出されて男は戦慄する。
自分は妻子を殺したのだろうかーー?
本作は、必ず他の御手洗シリーズを1、2作読んでから手をつけられることを
強くおすすめします。なぜかは言えませんが。
(と言ってもそれでこの作品の素晴らしさが損なわれたりはしませんが)
御手洗潔の変人ぶりが本作ではきっとMAXです。
喫茶店でまたやってくれました。レッカー移動について愚痴を垂れていた
サラリーマングループの会話に、「いや、そうなんですな!」と突如割り込んで
演説をぶちかまします。
「潔」という名前についての面白い過去も明らかになります。
おトイレさんとか言われてます。
バイクにも乗っちゃいます。
トリックそのものは実は結構無理があるというか、偶然性に頼っている感じが
無きにしもあらず。計画自体は緻密であり融通も効かせまさに悪魔の犯罪計画。
読み応えはばっちりです。
無理があるとか、そんな事はどうでも良くなる程いい作品というのは存在します。
友情物語として読むか、恋愛物語として読むか、家族の歪んだ愛情と哀しい運命を
読み取るか。いえいえ、これは小説に必要な全要素が詰まっていると言えましょう。
御手洗潔が主人公に向けて発したこのセリフ。
「君、僕だって一人ぼっちだ」
御手洗潔は、愛と己の葛藤と数奇な運命に
苦悩する友人が一番欲しい言葉を放ちました。
これ以上の言葉があるでしょうか。
そして、ラストは恐らく大半の読者が驚愕した真相が明らかとなり、
決して大団円とは言えないけれども、これから御手洗潔と一人の青年が歩んで行く
輝かしい未来の予感で物語は終結されるのです。
いや、ほんとに、この作品に何も心動かされないなら人生やり直した方がいい。