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傲慢と善良  (ねこ4匹)

辻村深月著。朝日文庫

婚約者・坂庭真実が姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。「恋愛だけでなく生きていくうえでのあらゆる悩みに答えてくれる物語」と読者から圧倒的な支持を得た作品が遂に文庫化。《解説・朝井リョウ》(裏表紙引用)
 
辻村さんの文庫新刊は、<婚活>に翻弄される2人の男女の物語。西澤架は自営業を営む39歳。友人も多く、容姿も高めでコミュ力もある。大学時代から女性に苦労したこともない。しかしいざ結婚話が出ると「もっといい人がいるのではないか」と躊躇し別れを繰り返してきた。気づけば39歳。まわりの友人たちは皆結婚し家庭を持ち、若い頃は頻繁にあった合コンの誘いや出会いもない。今思えばレベルの高かった元カノの結婚式の画像を見ては落ち込み、とうとうマッチングアプリでの婚活を開始する。しかし50人弱の女性と出会っては「ピンとこない」という理由で交際に至らず。。。
 
もうこれだけで「うわあ。。。」という感じである。今までモテていたことで傲慢になり、自分の価値がいつまでも高いと錯覚する。結婚相談所の社長いわく、選ぶ相手で婚活者が自分に付けている点数がわかるという。成婚に至らない人には共通点があり、口では「普通の人でいい」「高望みはしていない」と言いながら、自分に付ける点数はみんな驚くほど高いというのだ。
 
しかし、架が一般的な水準でみて酷い男だとは思えない。親との共依存や人からどう見られるかに苦しんできた真実だって婚活における「事故物件」とはほど遠いだろう。傲慢さも善良さも誰しもが持っていて、それが2人の場合は少しだけ人より高かったというだけのことだ。これだけ自分自身を見つめ直した後なら、普通の幸せな家庭を築けると思う。(しかし、そこまでしてムリに結婚せにゃいかんかね??推しやハマれる趣味でも見つければ?とも思う。婚活している人の中には、どうしても結婚がしたいわけじゃなくて周りからやいのやいの言われたりどう思われるか気にしすぎて、それが辛いからって人も多いのでは。。)
 
それよりも印象深かったのは架の女友達グループ。女のイヤなところを全面に出しましたというような、ああこういう人たちいるよねと感じさせる本物のリアル。もともとは架の「真実と結婚したい気持ちは70%」発言や真実の〇〇が発端だが、それを本人に言うとか。。「私たち、酔ってたの」と意味不明の免罪符を掲げ、「気に入っている男に寄ってきた、その男とは釣り合わない気に入らない女」を徹底的に言葉の刃で傷つける。こりゃもう、架も結婚したらこういう人たちとは距離を置いたほうがいいんじゃないか。「サバサバ」を履き違えた悪意ほど厄介なものはない。
 
それはそれとして、真実の章について少し言いたいことが。物語の筋に触れているのでご注意を。↓
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
何人か同じことを言っている人もいたが。
「震災ボランティア」をもってくるのは禁じ手じゃないかなあ。
恵まれた人だって悩みのない人だって、ああいうところに関われば何かしら考えの変わる部分はあると思う。まるっきり人生観が変わる人だっているだろう。作家としては安易なところに手を出したなと残念だった。辻村さんだからなおさら。
 
 
 
 
それがなければもっと評価は高かった、とても面白く素晴らしい作品だったからこそ惜しい。