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エムブリヲ奇譚  (ねこ4匹)

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山白朝子著。角川文庫。

「わすれたほうがいいことも、この世には、あるのだ」無名の温泉地を求める旅本作家の和泉蝋庵。荷物持ちとして旅に同行する耳彦は、蝋庵の悪癖ともいえる迷い癖のせいで常に災厄に見舞われている。幾度も輪廻を巡る少女や、湯煙のむこうに佇む死に別れた幼馴染み。そして“エムブリヲ”と呼ばれる哀しき胎児。出会いと別れを繰り返し、辿りついた先にあるものは、極楽かこの世の地獄か。哀しくも切ない道中記、ここに開幕。(裏表紙引用)
 
読みそびれていた山白作品のひとつ。時代モノっぽいなー、どうかなー、と思っていたけどめちゃくちゃ好みだった。これ好き。旅本作家の和泉蝋庵と荷物持ちの耳彦が織り成す旅道中。9編収録の連作短編集。
 
「エムブリヲ奇譚」
耳彦が道中で拾った胎児は、母体の外で生きていけるという。懐に入れて可愛がっていたが、胎児が成長しないことに気づいて…。
もう発想からして奇抜。耳彦の人情がうかがえる。
 
ラピスラズリ幻想」
書物問屋ではたらく輪が蝋庵先生の旅に同行することになった。輪が持ち歩く青い石の由来と、輪廻転生の物語。何度も生まれ変わるけれど、産後亡くなった母親の顔だけは見ることができないの切ない。何度も違う人生を歩めるってちょっと羨ましいかも。知識と経験も記憶できるっていうのもいい。
 
「湯煙事変」
耳彦が幼少の頃想いを寄せていった少女、ゆのか。たどり着いた温泉では、ゆのかや死者たちと出会えるのだが…。ラストが切ない。山白さんっぽくちょっと残酷さもある。
 
「〆」
どこまでもついてくる鶏に小豆という名前をつけペットとして可愛がることにした耳彦。魚が人間の顔に見えるから食べられないというのは理解できるけど、餓死しては仕方ないものね。でもなあ。。。これは残酷、でも仕方ない、でもなあ。。こういう結末、山白さん(乙さん)でしか思いつかないだろうね。
 
「あるはずのない顔」
昔崩落しなくなったはずの橋を時々旅人が見るという。息子を崩落で失った老婆の頼みでその橋を見せてしまった耳彦だが…。母子が抱き合って喜ぶ姿が見たかった、という耳彦の優しさが虚しいラスト。これも作者らしい。
 
「顔無し峠」
ある村にたどり着いた蝋庵と耳彦だが、耳彦がかつて死んだ喪吉という男にソックリらしい。喪吉として暮らし始めた耳彦だが…。
妻と子と平穏な暮らしを続けることもアリだと思うけど、実際他人だからね。これで良かったのかも。
 
「地獄」
山賊に捕まり抜け出せない穴に監禁された耳彦。その穴には先に捕まったという夫婦がいた。やがて山賊は3人のうち1人だけ助けてやると言うが…。
ここにきてなかなかにヘビーな話。。おぇ。。耳彦、とんだ災難だったなあ。少女も可哀想。
 
「櫛を拾ってはならぬ」
髪の毛に取り憑かれ死んだ友人の話。ああ、髪の毛モノってなんでこんなに怖いんだろう。。眼球から髪の毛って。。。ぉえ。
 
「さあ、行こう」と少年が言った
なんかのタイトルのパロディみたいだけど、内容は結構キツイ。この時代に嫁いできた女性の待遇ってなんでこんなに酷いんだろうか。女性も、言い返すなり逃げるなりしなさいよ。って言いたくなる。少年が女性に文字を教えることによって心を通い合わせるお話。この少年の正体、「道に迷う」のところで分かった時には嬉しかった。
 
以上。
時代モノの幻想怪奇物語という感じかな。やはりキャラクターの色付けや物語づくりがうまい作家だなと思う。普通、こういう展開にはしないよね、と思ってしまう切なさと残酷さはオンリーワンかも。山白さん、時代モノの方が合ってるんじゃないかなあ。いくらでもシリーズ化できそう。