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正しい女たち  (ねこ3.8匹)

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千早茜著。文春文庫。

不倫に悩む親友にわたしがしたこと(温室の友情)、同じマンションに住む女に惹きつけられる男(偽物のセックス)、残り少ない日を過ごす夫婦の姿(幸福な離婚)ーー。偏見や差別、セックス、結婚、プライド、老いなど、口にせずとも誰もが気になる最大の関心ごとを正しさをモチーフに鮮やかに描く短編集。(裏表紙引用)
 
千早さんを読むのはデビュー作「魚神」以来の2冊目。べるさんのところで以前面白そうだと思ってチェックしていた作品を今。
 
「温室の友情」
遼子の中学時代からの親友4人グループ。1番話が合う恵奈が不倫で辛い想いをしていると知った遼子はある手段に出るが…。
ずいぶんステロタイプな、女のイヤなところを抽出した関係性だなと思った。多少共感するところもあるけれど、社会に出たり結婚したりすれば、良く言えば親密、悪く言えばネチネチした付き合いってしなくなると思うんだけど。精神的な幼さが印象に残る。
高級レストランで出た薄い卵の殻を立たせた料理が効果的で暗示的。
 
「海辺の先生」
海辺の田舎町で少女時代を過ごした美優の、家庭教師をしてくれた謎の先生との思い出。片親で、母親がスナック経営って思春期の女の子には色々思うところあると思う。美優の場合、実害もあるしね。青い万年筆を見るたび思い出すんだろうね。
 
「偽物のセックス」
同じマンションに住む奥さんは性に奔放だという噂があり、主人公の男もその女性が気になって仕方がない。ある日女性の勤務終了を待ってその後をつけるようになったが…。いやいや、後をつけるのもだけど家に乗り込むとか犯罪だから。ほぼ異常者レベルの主人公、結局は寂しかっただけなのか。
 
「幸福な離婚」
数ヶ月後、離婚することが決まっているイツキとミヤ。それまで仲睦まじく暮らすことを決めたが…。離婚が決まってから関係が良くなるのはたまに聞く話だからまああるんだろうけど、良く分からない話だった。やり直すわけではないのね。
 
「桃のプライド」
1話目に出てきた4人組の1人、売れない芸能人をやっている環が語り手。30になり、まだチャンスを掴めず、焦りや不安に押しつぶされる気持ち。若い頃は勝ち組だったのに。今は、当時地味だった友人たちは大手の会社で堅実に積み重ね活躍したり結婚し2人目を妊娠したりと立場が完全に入れ替わってしまった。そんな自分を隠したくてSNSで盛ったり忙しいフリをしたりする環。そのどうしようもない心理がよく描けていた。
 
「描かれた若さ」
婚約者に、指輪よりも肖像画が欲しいと言われ渋々ながら画家のもとへモデルをしに行った男。しかし実際の描き手は騒がしく失礼な女子高生たちで…。
不条理感や世界観が1番自分の知っている千早さんらしい作品だった。自分を棚にあげて年をとった女性の容姿や若い女性をバカにしてきた男が女たちに復讐される、スカっとする話。まあ、現代は割とこういう男の肩身が狭くなってきたのでそういう意味では時代の先を読んだ話と言えるかも。
 
以上。
適度にイヤな感じが出ていて、ちょうどいい塩梅かなと。「正しい」って難しいと思う。ルール通りに、自分の気持ちに忠実に、それの全てが正しいわけではないのが人間なので、ちょっとその正しさが滑稽な作品もあったりする。「正しい女」を揶揄したタイトルなのかなとも思うので、なかなかうまい作品ばかりではないかな。