すべてが猫になる

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噛みあわない会話と、ある過去について  (ねこ4匹)

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辻村深月著。講談社文庫。

大学の部活で仲のよかった男友達のナベちゃんが結婚するという。だが、紹介された婚約者はどこかズレていて――。 「ナベちゃんのヨメ」 国民的アイドルになったかつての教え子がやってくる。小学校教諭の美穂は、ある特別な思い出を胸に再会を喜ぶが……。「パッとしない子」 人の心裏を鋭くあばく傑作短編集!(裏表紙引用)
 
ふー。薄いけどメンタルえぐられたあ。面白かった!
自分のしてきた無自覚の悪意に切り込んだ、4編収録の短編集。
 
「ナベちゃんのヨメ」
佐和が所属していたコーラス部の友人、ナベちゃんから結婚式の招待状が当時のメンバー全員に来た。しかしナベちゃんの婚約者はなんだかヤバいようで…。
確かにヤバいヨメだけど、陰で悪口ばかり言ってる女子メンバーのほうに疑問。よくあう光景かもしれないけど、本人らがいいなら大きなお世話かと。結局、冴えない恋愛対象外だった男が幸せを掴んだのが気に入らないのかな。
 
「パッとしない子」
昔は冴えなかった、国民的アイドルの弟の担任をしていた美穂。ロケで母校を訪れることになったアイドルに個人的に話がしたいと言われ感謝されるのかと思い込んだ美穂だが――。
引きこもりの大人とかならともかく、今大成功して表裏共に人望が人一倍必要であろう職業の大人が、密室に呼び出して過去の恨みをネチネチ言うことに恐怖。誰でも尊敬できなかった教師の1人や2人いるだろうし、相手も人間だし、教師は聖人君子じゃない。だけど他人事じゃない気がする、無自覚の悪意。
 
「ママ・はは」
急にホラー!?教師仲間の友人スミちゃんの母親は「真面目教」に入信している毒親らしい…。家族旅行を予約しておいて「受験生が旅行なんて行っていいの?」と怒ったり、成人式の着物をクーリングオフするなどかなり情緒が危険水域に入っている感じ。まさかこんなファンタジー(ダークよりの)展開になるとは。
 
「早穂とゆかり」
情報誌ライターの早穂は、個人塾経営で大成功したかつてのクラスメイトゆかりに取材を申し込んだ。当時のゆかりは虚言癖のある嫌われ者で、冴えなかったはずだが…。
ここまで言うのか、というぐらいやり返される早穂。やられた方は忘れていないし、人を小馬鹿にして生きている人は自分も誰かに同じように笑われていると思ったほうがいい。
 
以上。
「ナベちゃんのヨメ」「パッとしない子」「早穂とゆかり」には共通点があるなあ。かつて舐めていた人間が現在大成功、幸せを掴んでいて、僻んでいるようにしか見えなかった。あと、有名人と少しでも繋がりがあると、誰かに言いたくてたまらないという心理。そして自分の悪意に自覚がない。こういう感情ってもしかしたら誰にでも大小なりともあるもので、その微妙なラインをうまくエグってくるなあと思った。分かりやすい過激なイジメや常識のない不快な人間を描いた小説が最近多い気がするけど、辻村さんのこれは普通の一般の常識人(と自分で思っている)の醜さを浮き彫りにしている。これぐらいなら心当たりあるな、、とか自分でもやっちゃうかもな、、知り合いにいるな、、っていうスレスレのところを描き、追い詰めて逃がさない。この繊細さと過激さを両方併せ持つ辻村さんは唯一無二のすごい作家。