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青空と逃げる  (ねこ3.7匹)

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辻村深月著。中公文庫。

深夜、夫が交通事故に遭った。病院に駆けつけた早苗と息子の力は、そこで彼が誰の運転する車に乗っていたかを知らされる……。夫は何も語らぬまま、知らぬ間に退院し失踪。残された早苗と力に悪意と追及が押し寄せ、追い詰められた二人は東京を飛び出した。高知、兵庫、大分、仙台――。壊れてしまった家族がたどりつく場所は。(裏表紙引用)
 
辻村さんの文庫新刊。けっこう分厚いね。中身を全然知らないまま作家さん買いしたのだけど、こういう内容だと思ってなかったので(タイトル的にさわやか系なのかなと)結構キツかった。俳優の夫が事故を起こしたと思ったら売れっ子女優が運転していて、ダブル不倫で叩かれて、女優は自殺して、夫は行方不明の音信不通、マスコミや女優が所属していた事務所からの執拗な訪問から逃れるために妻と子どもが全国を転々とする、っていう地獄みたいなお話。
 
逃げた無責任夫にイライラしつつ、早苗が怯えて逃げ続けなきゃいけなかったり、息子の力(ちから)が学校に行けなくなったりイジメられたりと、一番の被害者は妻子じゃん、とムカムカが止まらなかった。その実、逃亡先で関わる職場や旅館の人びとがみんなみんないい人で心があって、人っていいなあと根本的なところで感動したり。特に鉄輪温泉で砂場で働いていた時、やりがいもあって仲間も素敵で、羨ましいとさえ思ったなあ。息子が小五っていう難しい年頃だけど、「離婚しないで」と泣いていた時から「離婚してもいいよ」に変わるまでに色々、本当に色々あったと分かっているから胸がきゅーっとなったなあ。。そんなに早く大人になってしまうのか、力よ。。
 
まあ、でも、私は多くの読者と違ってひねくれているのか、これをハッピーエンドだとは思わないし夫を見る目はそれほど変わらない。どんな事情があれ、妻子を置いて逃げるは絶対に選択肢にないし、何もなかったとしても疑われるような行動を取ることがもう軽率だったと思う(逆らえなかったケースも考えられるが、失うものの方が大きくないか)腐っても芸能人でしょ。コロナ禍のパーティーとかもそうだけど普通の人より影響力やバレた後の逆風がキツいってことぐらい、そんなことぐらい、当たり前に分かってる人がいいなあ。って私の趣味なんか知らんがなということで。。でもまあ主人公の早苗がしっかりしていて意外と強くて、歌がうまくて、まとも側の人間だったから応援できた(私が普段読んでいる小説では、ヒロインに同情できないパターンが本当に多いの)。