すべてが猫になる

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キミトピア  (ねこ4.5匹)

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舞城王太郎著。新潮社。

夫の「優しさ」を耐えられない私(「やさしナリン」)、進路とBITCHで悩む俺(「すっとこどっこいしょ」。)、卑猥な渾名に抗う私(「ンポ先輩」)、“作日の僕”と対峙する僕―(「あまりぼっち」)。出会いと別離のディストピアで個を貫こうともがく七人の「私」たちが真実のYOUTOPIAを求めて歩く小説集。第148回芥川賞候補作「美味しいシャワーヘッド」収録。(紹介文引用)
 
13年の舞城王太郎作品。舞城さんの本は必ず読んでいると思っていたが、1冊抜けがあった模様。(13年といえば、1冊も本を読まなかった年。納得)で、未だに文庫化されない。芥川賞候補作なのに?下ネタ多いから?でもそれ言ったらもっと直接的にシモな作品もあったはず。で、調べたらまだ在庫があったので取り寄せてみた。
 
読んでみれば、なぜ文庫化されないのか謎なくらいの名作ぞろい。舞城さんらしい、愛と人生の指針が詰まったフルスロットルな作品が並んでいる。
 
「やさしナリン」
作家の櫛子の夫と義妹の、優しいがゆえの暴走に苦悩する物語。優しさって絶対的に正しい心で、それは決して他人に強要するものでもなく否定されるものでもないのだけれど…家庭が崩壊する目前のヒリヒリした夫婦の会話に胸がキリキリ。他人は馬鹿だけれど、自分だってそうかもしれないよね。
 
「添木添太郎」
自分の読み込みが足りないのか、タイトルの意味が分からなかった。体の一部の感覚がランダムに麻痺したり体を外したり出来る彼女の添え木に自分はなる、って話だろうか?若者の成長。
 
「すっとこどっこいしょ。」
やりたいことも得意なこともない男子高校生の進路の悩み。でも彼女はいるんだよね。自分の気持ちも他人の気持ちもぐちゃぐちゃで、ああこの年頃の若者特有のアレね、なんて思っていたらラスト血まみれ地獄で口あんぐり。。
 
「ンポ先輩」
↑これは配慮して一字抜いたわけではなく実際にこのままのタイトル。卑猥なあだ名でえ呼ばれる人気者の先輩、しかし茅子はそのあだ名ゆえに彼とは距離を置きたい。それを責める友だち。。意見そのものは茅子と同意見だけれど、理屈でマシンガンのように責め立てられるとイヤになるな。。心の穴ってところから頭のおかしなストーカー女が茅子の家に上がり込む展開がカオス。
 
「あまりぼっち」
妻が娘を連れて家を出ていったが、男は妻子に無関心。そんなある日現れたのが「昨日の僕」というSF的展開。主人公の感情のなさが不気味。自分自身にさえ見切りをつけられてしまう。何かに覚醒したかのようなラストだけれど、この主人公何も分かってないような。
 
「真夜中のブラブラ蜂」
子育てが終了した専業主婦。今まで何も行動しない、何も作らない、何もしたいこともない人生だった。だがある日突然、「ブラブラ」することに目覚めて…。これって、子どもが巣立って寂しいとか家が息苦しいとか、自分探しをしたいとかじゃないんだよね。ただただそれがしたい、記録したいわけでも発信したいわけでもない。でもこれが夫や息子には伝わらない。彼女の決断にビックリ、そのあとに起きた事件にまたビックリ。このラスト一行世界一すき。
 
「美味しいシャワーヘッド」
シャワーヘッドを飲み込んだエピソードから色々と話が突飛な方向へ飛んでいく感じで、散漫していてあまり理解しきれないお話だった。これもまた、誰かに本気で向き合えない症候群の男の話だと思うのだけど。
 
以上。
「やさしナリン」「ンポ先輩」「すっとこどっこいしょ。」「真夜中のブラブラ蜂」が特にお気に入りかな。特にブラブラ蜂は至高の出来かと。女性が現代的で行動的、男性が消極的で保守的というパターンが多かったように思う。要は行き過ぎる部分と真逆の部分、だけど行き着く先はどちらも愛、みたいな。決して男女がくっつくみたいな軽い意味だけではなく、人生の指標を見つけていく人びとのお話という感じ。エロも暴力も流れるような文体リズムも健在で、胸ぐらを掴まれて「分かるだろ!?」って思わされてる感覚が今回もクセになる。あー面白かった。