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サーチライトと誘蛾灯  (ねこ3.8匹)

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櫻田智也著。創元推理文庫

昆虫オタクのとぼけた青年・エリ沢泉(えりさわせん。「エリ」は「魚」偏に「入」)。昆虫目当てに各地に現れる飄々(ひようひよう)とした彼はなぜか、昆虫だけでなく不可思議な事件に遭遇してしまう。奇妙な来訪者があった夜の公園で起きた変死事件や、〈ナナフシ〉というバーの常連客を襲った悲劇の謎を、ブラウン神父や亜愛一郎(ああいいちろう)に続く、令和の“とぼけた切れ者"名探偵が鮮やかに解き明かす。第10回ミステリーズ!新人賞受賞作を含む連作集。(裏表紙引用)
 
初読み作家さん。これがデビュー作のようで1作きり。ネットで見つけてなんとなーく好みっぽそうだったので。結論から言うとやはり好みの感じだった。昆虫オタクの青年・魞沢泉(エリサワ・セン。推定30代半ば)が色々な場所で事件に巻き込まれそれを飄々と解決する連作集。
 
「サーチライトと誘蛾灯」
ドングリ公園で見回りをしていた吉森は、謎の青年魞沢と共に怪しげな探偵と遭遇する。翌日その探偵が公園で殺害されていて…。とにかく最初から出てきた登場人物すべてがストーリーに食い込んでくるのがすごい。動機はつまらないが意外にもしっかりとした論理的ミステリだった。ホームレスにも色々いるんだな。。ホロリ。
 
ホバリング・バタフライ」
数年前に夫を亡くした瀬野丸江は、アマクナイ高原に捨てられた空き缶に印をつけまた放置をするという謎行動を取っていた。チョウを探しに高原へ来ていた魞沢と手を組んで、アマクナイ倶楽部の不正を暴こうとするが…。ゴミ放置の一件だけでも1つの物語として面白くなったと思うが、さらに大きな犯罪が。こういう浅はかな人間許せないよね。
 
「ナナフシの夜」
バー「ナナフシ」で意気投合した倉田と保科だが、保科は妻と色々問題がありそうだ。魞沢と保科の妻が合流し盛り上がったその翌日に、保科は妻に刺殺されたようだが何かがおかしい。。色々と細かいところから保科夫妻の秘密に気づけた魞沢天才。。しかしこういう人間関係何が面白いのかな。殺される覚悟でやらないと。
 
「火事と標本」
旅館の主人が魞沢に語ったのは、かつて昆虫標本をくれた主人の師匠の心中話だった。。写真家としてこれからという時にこの悲劇。話を聞いただけですべての真相を見抜いた魞沢。優しい人だったんだろうけど、芸術家って大なり小なり残酷な性質を持っているのかも。
 
アドベントの繭」
教会の牧師が撲殺死体で発見された。なぜか死体はクローゼットの中に移動させられていて、扉の前には牧師のものではない聖書が。集まった教会員たちといなくなった息子の関連は。。思い違いが招いた取り返しのつかないことってやりきれないなあ。人を信頼するって難しいし、誰かを理解しようとするっていうのも一朝一夕にはできないね。
 
以上。
思っていたほど昆虫薀蓄はない。拍子抜けするほど。会話はとてもコミカルでテンポがいいのでジャンル的にはなごみ系?それとミステリとしての堅実さがあって、さらにどのお話もホロリとくる人情ものでもある。嫌いになる要素が全くない。これは今後が楽しみな作家さん。あと、あとがきにあった泡坂妻夫さんとのエピソードがほっこりする。これはこの作家さん好きになっちゃうなあ。