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鳥 デュ・モーリア傑作集/Kiss Me Again Stranger  (ねこ4匹)

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ダフネ・デュ・モーリア著。務台夏子訳。創元推理文庫

ある日突然、人間を攻撃しはじめた鳥の群れ。彼らに何が起きたのか? ヒッチコックの映画で有名な表題作をはじめ、恐ろしくも哀切なラヴ・ストーリー「恋人」、奇妙な味わいの怪談「林檎の木」、貴婦人が自殺した真の理由を私立探偵が追う「動機」など物語の醍醐味溢れる中短編八編を収録。『レベッカ』と並び称される代表作、初の完訳。(裏表紙引用)
 
ヒッチコックの名作「鳥」の原作を含む八篇収録の短篇集。多分、海外小説好きの中では知らない人はいない作品集なのではないかな。結構分厚いのだけどまあ間違いないだろうということで初挑戦。どれも中編くらいの厚みがある。
 
「恋人」
自動車修理工の男が、立ち寄った映画館の受付嬢に一目惚れしてしまった。待ち伏せして一緒にバスで帰ることが出来たが、彼女は墓石の上に寝転ぶなど奇矯な行動を始める。最後に女性の正体や行動の理由が分かるのだが、怖いより先に男が可哀想になる話ではある。
 
「鳥」
目当ての作品と言っていいだろう。映画は観たことがあるのだが、原作とは結構違っていて新鮮だった。まあ、50ページほどの短篇を2時間で表現するのだから当然だが。終わり方の唐突さは共通しているように思うが、映画と原作、また別々の怖さがあるな。個人的には鳥が苦手なので(トリニクは好きだが)、部屋いっぱいの鳥の死骸とか想像しただけでううう。。
 
「写真家」
誰もが振り向く美しさを持つ公爵夫人。夫が仕事で来れなくなり、娘2人と家庭教師だけでホテルの休暇を過ごすことになる。退屈すぎる日常につい男との悪い関係を望んでしまい、冴えない写真家を弄んだあげくこの結果。。まあ自業自得ではあるけど、一生償わなきゃいけないことをしたわけでもない。相手が悪かった。
 
「モンテ・ヴェリタ」
結末から始まるので、悲しい物語だということは分かる。ダークファンタジー?なのかな。山奥の宗教団体?のような組織に取り込まれた女性、女性を組織に取られてしまった夫、そして謎を解き友人を助けたい主人公。不老不死や天国、不変の安全なんてものは存在しないんだなあと。こういう友情の形もあるのかな。友人の妻に惚れるなよとは思うが。。
 
「林檎の木」
口うるさい妻が死んだ後の男の物語。庭に残った林檎の木のひとつが狂い咲きし、大量の腐った実が鳴る恐怖。すべて妻の怨念?なのかなあと思うけれど、そこまでどうして夫に固執したのかは謎だった。それほど執着するほどの妻、夫ではなかったように思うけどねえ。浮気の恨み?ならもう晴らしているし。
 
「番」
湖そばに暮らす変わった一家の話。爺さんが子ども4人をどういう風に育てたか。出来損ないの息子との関係が悲しいな。ちょっとひどい親だなあと思うけれど。。
 
「裂けた時間」
几帳面でしっかりした女性がある日散歩から戻ると家の中は知らない人間たちが住んでおり、家具や何もかもが消え失せていた。警察からも信じてもらえず、狂人扱いされるが…。途中で真相は分かるものの、キレのいいオチにすっきり。無限ループ?
 
「動機」
出産間近で幸せいっぱいの女性がいきなり銃で自殺した。動機をどうしても知りたい夫は探偵を雇うが…。1人の人間の過去にこれほどの物語があったとは。しかしショッキングだとは思うけれど、自殺しなくても…。。
 
以上。
どれも傑作だと思う。特に「写真家」「林檎の木」「裂けた時間」が好きかな。不安や恐怖に対して、ハッキリこれが原因だとか誰々の呪いだとかそういったものがないのが一番怖いのだと思う。文学としても読み応えがあっておすすめ。