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美人薄命  (ねこ3.7匹)

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深水黎一郎著。双葉文庫

弁当配達のボランティアで老婆・カエと出会った、大学生の総司。家族を失い、片目の視力を失い、貧しい生活を送るカエは、愛し合いながらも結ばれなかった男との思い出を語り始める。その悲しい恋物語には、総司の人生すら一変させる、壮絶な秘密が隠されていた。衝撃の結末が待ち受ける、長編純愛ミステリー。(裏表紙引用)
 
深水さんを読破していこうと思い始めて、この作品だけはタイトルも表紙もそそられなくてどうしようかなと考えていたが…読んで良かった、面白かった。
 
一人暮らしの老人の家に月2回お弁当を届けるボランティアを始めた大学生の総司。単位や卒論目的だけに最初はいい加減な気持ちを持ってやっていたが、配布先の1つであるカエさんと知り合ってから心に変化が生じ始める。…という導入なので、最初は「カエさんと心を通わせいい加減だった総司が成長していき…」という結末を想定していた。もちろんそういうお話なのだが、そこは深水さん。しっかりと予想の斜め上をいく「その後」の展開が用意されていた。戦後のカエさんの苦労話の章が旧字ばかりで読みにくかったし内容的にも不幸すぎて苦痛だったのだが…そこに深い意味があったとは。
真相にも驚きだったし、カエさんの女心や総司のカエさんを想う気持ちにホロリ来てしまった。最後まで読んで良かったなあ~。
 
ただ、総司のキャラクターがどうも馴染めなかった。心の中で思っていることが子どもっぽいし、憧れの女性に対していきなり沙織ちゃん呼び……この沙織ちゃんのエピソードがあまりにもステロタイプすぎて…この子の存在、必要だったかなあ?途中退場するし。(どうでもいいが、デパートのブランドの財布ってセキュリティ万全だから万引きできないよ)周りの人が総司を最初から認めていた、というのも違和感ありありだったなあ。こういうタイプにいきなり大東亜戦争の薀蓄語られても。。仲間たちにボランティアについて演説して引かれるくだりも、そりゃそうじゃない?と思った。昨日までそれに興味がなかった人間がいきなり立派なこと言いだしたら…誰だって胡散臭いと思うと思う。最後の最後にすごく純粋ないいやつになるけど、最初がひどかったからその変化が伝わってこなかった。ミステリ的にはすごくいいのに、総司のキャラだけはいただけなかったな。ただ、カエさんはとても魅力的だった。この人のミステリアスで人懐っこい人柄のおかげでだいぶ救われたお話だったと思う。