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1950年のバックトス  (ねこ3.7匹)

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北村薫著。新潮文庫

「野球って、こうやって、誰かと誰かを結び付けてくれるものなんだね」忘れがたい面影とともに、あのときの私がよみがえる…。大切に抱えていた想いが、時空を超えて解き放たれるとき―。男と女、友と友、親と子を、人と人をつなぐ人生の一瞬。秘めた想いは、今も胸を熱くする。過ぎて返らぬ思い出は、いつも私のうちに生きている。謎に満ちた心の軌跡をこまやかに辿る短編集。(裏表紙引用)
 
北村さんの23作品を収録した短編集。
 
23作品ということで、テイストもバラバラだしページ数も長いものからあっという間に終わるものまで。何気ない日常を優しく独自の視点で描いていて穏やかな気持ちになれるものが多い。普通の人々のちょっとした事件や疑問も、本人の視点になればどれも生き生きと輝いて見える。
 
表題作はタイトルの意味すらわからない野球音痴の自分でもぐっと来るものがあった。モチーフが野球でなくとも成立するが、もっとさらに年を重ねたら自分が体験してきたことや出会った人々との奇縁ももっと深く分かるのだろうし、年を取ることは他人のことだという台詞も実感しやすいのだろう。好きなのは亡くなった義母の大事な包丁の柄を蘇らせる「包丁」、何も怖いものはないと思っていた父親が娘と観た恐怖映画で意外な体験をする「恐怖映画」、そして中盤からは外国小説のような趣のものが増えてどれも好みだった。北村作品とは思えないタイトルの「百合子姫・怪奇毒吐き女」のオチは笑ったな。まあ、女性なんてこんなもの^^;