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元気でいてよ、R2-D2  (ねこ4匹)

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北村薫著。集英社文庫

平穏な日常は、他人の何気な言葉ひとつで、ざわつき始める。夫と後輩女性が噂になっていると聞き、妻が駆け込んだ所は?(「マスカット・グリーン」)女同士の飲み会で、あっちこっち脱線しながら話すうち、ふと蘇る切ない記憶(「元気でいてよ、R2‐D2。」)。笑顔の裏の真意、言葉にできない負の感情など、普段は隠している本音が顔を出す瞬間を、女性を主人公に巧みに描く。傑作短編8編を収録。(裏表紙引用)
 
北村さんの恐怖小説集ということで期待は大きく。いやあ、なんか凄かった。8編収録されているうちの好きだった作品の感想を。
 
「マスカット・グリーン」
最初、オチの意味が分からなかったが腑に落ちた瞬間背筋がゾゾっとした。誠実で淡白な夫の浮気を疑う話なのだが…ハッキリとそうは書いていないのがいい。
 
「腹中の恐怖」
新手のストーカー出たなあ。自殺したストーカーの母親から手紙っていうだけでもう恐怖しかない。思い込みにも色々あるが、これは常軌を逸している。せめて女の子でありますよう。
 
「微塵隠れのあっこちゃん」
横暴な人間はどんな団体にもいるもんで。屈辱に耐えられるあつ子には辛い過去が。大人の世界のほうが余程理不尽だけど、子どもの頃のあの圧迫感っていうのを想像すると辛いのは子どもの方なのかな。
 
「三つ、惚れられ」
いやいやいや、怖いから。。。明るくドジっ子な後輩、特に社内で嫌われてはいないようだけど。。上司との噂もマグカップも全部そうだったのかと思うと。怖いのは、こういう新入社員っているんだろうなってところ。
 
「よいしょ、よいしょ」
イケイケ時代の文学賞受賞の記憶が苦いモノになった訳は。。こういう犯罪は少なくないのかもしれないけど、そいつが何の失敗もなく社会に溶け込んでいたってところが辛い。こんな偶然あったらイヤだ。
 
元気でいてよ、R2-D2」
引っ越し前に語り手の女性が語った過去の失敗。大したことじゃないと思うかもしれないが、人の心ってその時々で些細なことが世界の終わりになったりするからね。この結末は歯がゆいけど、同じ失敗を繰り返すもんなんだろうな。
 
 
以上。いわゆる普通の恐怖小説とは違うかもしれない。お化けが出てくるわけでも、恐ろしい殺人鬼が出てくるわけでもない。ごく普通の人間の普通の日常に潜む怖い体験。こういうスタイルの作品でもちゃんと北村さんの世界が保たれていて、やはりハっとする文章や考え方がさりげなく挟まれているのがいい。恐怖って人間の感情の原点だし、北村さんと恐怖小説、合ってるかも。