すべてが猫になる

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厳冬之棺  (ねこ4.2匹)

孫沁文著。ハヤカワ文庫。

湖のほとりに建つ陸家の半地下の貯蔵室で、当主陸仁の遺体が発見された。この地下小屋は大雨により数日間水没していたにもかかわらず、その床は乾いており、誰かが外から侵入した形跡はない。まさに完全な密室状態だった。そして殺害現場には、なぜか嬰児のへその緒が。梁良刑事は直ちに捜査を開始するが、それを嘲笑うかのように新たな密室殺人が陸家を襲う…。華文ミステリ界の「密室の王」が放つ、本格謎解き小説。(裏表紙引用)
 
2024年の本格ミステリベスト10の2位作品ということでやっと読めた。華文ミステリには注目していたので、元々読みたいなと狙っていた本ではあった。著者は中国の「密室の王」と呼ばれるミステリ作家で、本書が初の長編ミステリらしい。
 
舞台は上海の郊外に建つ大屋敷、陸(リク)家。様々な因縁とヤバめの秘密を抱えるこの一家の長男が半地下の貯蔵室で窒息死していた。現場は元々水没しており、濡れていない遺体の謎から密室状態であることが分かる。人気漫画家で警察の非常勤似顔絵師でもあるアン・ジュンが探偵役をつとめ、助手にはリク家に間借りする声優の卵・ジョン・クゥ。やがて2番目の殺人が屋敷内で発生し、第3の殺人が。
 
米英ほかの作品に比べ、華文ミステリは読みやすい。同じアジア圏ということもあり、この作品では特に日本からのアニメ、漫画、芸能、ミステリ文化から色濃く影響を受けている印象で親しみやすく、どこか似ている。反面、日本人なら絶対言わないなという暴力的な台詞が若い女性から飛び出したり、喫茶店でレモンティーをわざわざ頼むなんて変な人、、なんていう「???」な価値観に触れることになったり、距離感が近いんだか遠いんだか分からない。だがここが面白い。
 
で、出来なのだが。要所要所に金田一少年の事件簿の影響が、、、笑。全盛期の島田荘司か!と突っ込みたくなるようなトンデモトリックの連続と、懐かしい時代の本格ミステリーのスタイルがとっても古臭く、だけど時代はオタク文化、新旧一体だかなんと言っていいか分からないけれど、そこがみょ~~~におもしろおかしく、はっきり言って好みにドンピシャだった。キャラクターも魅力的で、シリーズ続編の予定があると聞きぜひ読んでみたいと思った。

アリアドネの声  (ねこ4.4匹)

井上真偽著。幻冬舎

救えるはずの事故で兄を亡くした青年・ハルオは、贖罪の気持ちから救助災害ドローンを製作するベンチャー企業に就職する。業務の一環で訪れた、障がい者支援都市「WANOKUNI」で、巨大地震に遭遇。ほとんどの人間が避難する中、一人の女性が地下の危険地帯に取り残されてしまう。それは「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障がいを抱え、街のアイドル(象徴)して活動する中川博美だった――。 崩落と浸水で救助隊の侵入は不可能。およそ6時間後には安全地帯への経路も断たれてしまう。ハルオは一台のドローンを使って、目も耳も利かない中川をシェルターへ誘導するという前代未聞のミッションに挑む。(紹介文引用)
 
去年話題になっていた井上さんの最新作をようやっと読了。
 
巨大地震が発生し、地下都市に取り残された女性をドローンを使って救出するお話。その女性は目が見えず耳が聞こえず口がきけない三重障害を持っており、救助は困難を極めた。ネズミの大量発生、漏電、自動運転シャベルカーなど次々と立ちふさがる壁、ハルオら救助チームは彼女を救えるか。しかも同時期に失声症の女児が行方不明となり――。
 
よくここまでありとあらゆる困難が考えつくなと思う。映像化したらさぞ迫力だろう。初めは地下施設の説明やドローンの特性などの説明箇所がかなりの文量を占めるのでちょっととっつくにくかった。しかも、登場人物が全員性格が歪んでいたり熱血でウザかったりする。なんのため?と疑問に思う。要救護者の女性や通訳の女性ですら、詐称疑惑が生まれなんだか胡散臭く見えたりするのだ。
 
だが、それもすべて最後の真実を知るまで。多分、イライラしながら読んでいた人ほど感銘を受けると思う。もしかしたら自分はなんて心が歪んでいるんだと恥ずかしくなってしまうかもしれない。私のことだけど。まあとにかく最後のシーンだけで全て覆っちゃうぐらい、衝撃の結末だった。

赫衣の闇  (ねこ3.6匹)

三津田信三著。文藝春秋

ホラーミステリーの名手による、素人探偵「物理波矢多(もとろいはやた)」シリーズ第3作。戦中、満州の建国大学で五族協和の理想を求めた波矢多は、敗戦に接して深い虚無に囚われ、以後は国の復興を土台で支える職を求めようとする。抗夫として働く九州の炭鉱で起きた連続殺人事件を解決した(『黒面の狐』)波矢多は、上京して、建国大学で寝食を共にした級友・熊井新市の元に身を寄せる。新市の父・潮五郎は闇市を仕切る的屋の親分だった。波矢多は、潮五郎の弟分である私市吉之助から奇妙な依頼を受ける。私市が取り仕切る宝生寺の闇市、通称”赤迷路”にいつからか現れるようになり、若い女性のあとを付け回す全身赤っぽい男、”赫衣”の正体を暴いてほしいというのだ。赫衣に出くわした女性たちに話を聞いて回る波矢多だったが、そんな折、私市の経営するパチンコ店で衝撃的な殺人事件が起き、私市に容疑がかかる。事件の真犯人は誰なのか、そして赫衣の真相とは。戦後直後の猥雑な風俗のなかで繰り広げられる、無二の味わいのホラーミステリー。(紹介文引用)
 
物理波矢多(もとろい・はやた)シリーズ第3弾。
一応前2作も読んでいるのだがブログ休止中だったので記事になっていないようだ。。時代背景も好みで探偵も面白かったのでまあまあ好きなシリーズだったのだけど、この第3弾はちょっと気が抜けちゃったかな?三津田さんお得意の論理的解決にはほとんど至ってなかったよーな。時代的に理解が難しいすごい動機だったし。赫衣の男の怪異も、三津田さんにしては怖さが弱かったよーな。
 
でも、戦災孤児・清一の凄まじい過去や娼婦たちの背景などが真に迫っていたのでそのあたりは読み応えがあったし、第三国人やら人権問題やら、戦争によって狂わされてしまった人々の生活や考え方、人間のいやらしさなどなど八割方面白く読めたので嫌いではないかな。

監禁  (ねこ3.7匹)

秋吉理香子著。双葉社

幼い娘の育児と仕事の両立に限界を覚えた由紀恵にとって、今日が勤務の最終日。 夜勤の間は、夫の雅之が自宅で娘を見ている。 だが、ラインのメッセージに返事はない。電話をかけても繋がらない。 由紀恵は自分に執着していた不気味な患者の存在を思いだし、胸騒ぎを覚える。 家族の絶望と狂気、そして再生を描いた戦慄のサスペンス。(紹介文引用)
 
秋吉さんのサスペンスもの。タイトル通り、ある人物が何者かに監禁される物語。
 
監禁事件そのものよりも、看護師である主人公の由紀恵のお仕事物語の方が比重が高く面白かった。ワンオペ育児で仕事も鬼のように忙しく、ストーカーの悩みまである。特に育児と仕事の両立や自称イクメン夫など、読んでいるだけでしんどさが伝わってくる。でも仕事を諦めようと思った途端気づく職場での魅力みたいなものってあるよね。
 
まあそこはリアルで良かったのだけど、肝心の監禁事件の犯人の心理や言動などはちょっと浅かったかなあ。恐怖はあるけども。どんでん返しがあるので盛り上がりはあるが、せっかくのいいテーマが薄れてしまった感。まあ面白かったけど、由紀恵はほんとにこの夫でいいの?

サスペンス作家が殺人を邪魔するには/Finlay Donovan an Knocks 'Em Dead  (ねこ3.8匹)

エル・コシマノ著。辻早苗訳。創元推理文庫

オンラインの掲示板に元夫の殺害依頼が投稿された!? シングルマザーで作家のフィンレイは、子育てに奮闘しつつ原稿の執筆に取り組んでいた。だが元夫の件が気になって仕方がない。しかもある人物が依頼に食いつこうとしているのを発見する。どうやらプロの殺人請負人らしい。フィンレイは同居人のヴェロと一緒に、元夫が殺害されるのを阻止しようと奔走するが……。極上の巻きこまれ型ジェットコースター・サスペンス第2弾!(裏表紙引用)
 
フィンレイ・ドノヴァンシリーズ第2弾。前作「サスペンス作家が人をうまく殺すには」が良かったので続編をいそいそと。
 
うん、続編も面白かった!裏掲示板で元夫スティーヴンを殺そうとしている人間がいることを知ったフィンレイは、ベビーシッター兼親友のヴェロと共に駆け回る。ヤクザ、放火、生首死体などなどとんでもない目に遭いながら、子育てに恋愛に大忙しのフィンレイ。ちょっとワニ町シリーズとノリが似てるかな。あっちもそうだけど、こういうのって<巻き込まれ型>って言わないと思う笑。自分に関係することとはいえ、自分から首突っ込みまくってるからね。。相変わらずスティーヴンはイヤなやつ。自業自得とはいえ、離婚しても子どもがいたら関わらなきゃいけないのって辛そう。
 
サスペンス的にも怪しい人がいっぱいいてスリル満点だけど、ホットなセクシー警官ニックと将来有望な弁護士の卵ジュリアンとの間で板挟みの三角関係、この要素が半分くらい入ってるかな~~。ジュリアンはやめたほうがいいと思うけどねえ。。暴力とかはなさそうだけど、旅行中インスタに鍵をかけるとかなんかいちいちめんどくさいよね。「この今の関係が気に入ってる」とかいう奴はやめとけやめとけ。ニックはニックで仕事柄心配になりそうだけど、、なんかニックが可哀想だよ。
 
で、殺人犯が明らかにならないまま、続く。

処刑台広場の女/Gallows Court  (ねこ3.6匹)

マーティン・エドワーズ著。加賀山卓朗訳。ハヤカワ文庫。

1930年、ロンドン。名探偵レイチェル・サヴァナクには、黒い噂がつきまとっていた。彼女は、自分が突きとめた殺人者を死に追いやっている――。レイチェルの秘密を暴こうとする新聞記者ジェイコブは、密室での奇妙な自殺や、ショー上演中の焼死といった不可解な事件に巻き込まれる。一連の事件の真犯人はレイチェルなのか?真実は全て“処刑台広場”に。英国推理小説界の巨匠による極上の謎解きミステリ。(裏表紙引用)
 
初読み作家さん。2024年このミスの3位作品だったので、発売時はスルーしていた作品なのだが読んでみた。
 
うう、まあ、なんとなく30年も40年もミステリを読んでいたらカンみたいなものが働くものでしてな。合いませんでしたわ笑。ハヤカワ文庫なので字は大きいし今時読みにくい訳、っていうのもそうそうないのでそこはいいんだけど。まあ、長かったのかな笑(本文580ページ) 飽きちゃった。
 
ダークヒロインなのかどっちなのか、っていう秘密めいたキャラのレイチェルは魅力的だったし、彼女を取り巻く使用人たちもなんだか意味ありげでいい雰囲気だったし、語り手の記者ジェイコブもまあ悪くなかった、読者好きのするキャラクターだったと思う。レイチェルがジャマだと思った人間は必ず殺されて、それがレイチェル以外の「やりそうな」人間のせいになる、っていうのが続いて、でもまあこれは実際裏とかなくてその通りなのかな~、っていう状態がずーーっと続くのがまずかった。やっぱ分かっていることを延々読まされるのは苦痛なので。それを覆すのがあのラストのサプライズだと思うのだが、これもさんざんミステリを読んでいればありがちな展開と感じてしまう。
 
映画のほうが(もしなれば)面白いと思う、キャラクターは映えそうだしアクション要素もあるし、サプライズも効果的に見せられそう。

暗闇・キッス・それだけで  (ねこ3.7匹)

森博嗣著。集英社

大学在籍中にコンピュータのインタプリタを作製、休学してソフトウェア会社を創業、1980年代にコンピュータ業界で不動の地位を築いた、IT史上の伝説的存在ウィリアム・ベック。会長職を譲り、第一線から退いたウィリアムは現在、財団による慈善事業に専念している。探偵兼ライターの頸城悦夫は、葉山書房の編集者兼女優の水谷優衣から、ウィリアムの自伝を書く仕事を依頼され、日本の避暑地にある彼の豪華な別荘に一週間、滞在することになった。そこにはウィリアムだけでなく、その家族や知人、従業員などが滞在していた。 ところが、頸城が別荘に着いた後、思いもかけない事件が発生する。警察による捜査が始まるが、なかなか手がかりをつかむことができない。そんな中、さらなる悲劇が……。取材のために訪れた頸城は、ウィリアムの自伝執筆の傍ら、この不可思議な殺人事件にも関わることになる。果たして、事件は解決できるのか。 忘れ得ぬ苦しい記憶を背負った探偵が、事件の謎・愛の影を探求・逍遥する、至高の長編小説。 待望の書き下ろし長編ミステリー。(紹介文引用)
 
↑あらすじ、長いな。。おかげで何も書くことがない。。
 
大昔に読んだ「ゾラ・一撃・さようなら」の続編。登場人物が同じだが違う事件なのでまあ単体で読めると思う。
 
IT企業家の富豪、ウィリアム・ベックの自伝を依頼された主人公の頸城が富豪の屋敷に滞在中殺人事件に巻き込まれる話。登場人物の半分が外国人。そしてなぜか探偵役の頸城にはガールフレンドらしき女性が2人。パっとしない主人公だが、寄ってくる女性はどちらも女優だったりレベルが高い。ミステリーと言っても森作品なので、推理らしきものもないまま「君が犯人なのかー」で解決する。珍しく動機らしきものあり。
 
うん、まあ相変わらずの森ワールドで、会話を楽しめればいいのかなと。特別残るものはないが普通に面白かった。