すべてが猫になる

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風神の手  (ねこ4匹)

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彼/彼女らの人生は重なり、つながる。
隠された“因果律(めぐりあわせ)"の鍵を握るのは、一体誰なのかーー 

遺影専門の写真館「鏡影館」がある街を舞台にした、
朝日新聞連載の「口笛鳥」を含む長編小説。
読み進めるごとに出来事の〈意味〉が反転しながらつながっていき、
数十年の歳月が流れていく──。
道尾秀介にしか描けない世界観の傑作ミステリー。(紹介文引用)

 

 

評判が良かったので文庫を待てず。

 

本書は連作中編の形を取った作品集。

 

第一章は、余命幾ばくもない奈津実が娘に語って聞かせる若き日の恋物語。新米漁師と、その父との3人だけのささやかな交流があたたかく切ない。自分自身に罪はなくとも、秘密を持たねばならないこういう境遇は辛いなと思った。正直に話すのが誠意だとは言え、父の会社が起こした薬剤流出事故はあまりにも…この若さで処理しきれない大きな影だと思う。漁師崎村の事件の真相には驚いたが、それを当時理解していれば今がより良くなったのかと考えたら…誰にも分からない。

 

第二章は小学5年生のまめとでっかちコンビの物語。冒頭のカメラの万引き行為には度肝を抜かれたが、まめの「お互いが嘘と分かっている嘘をつきあう」遊びの歪さを思うと、決してキラキラした友情の思い出とばかりは言えない。人間ってやはり他人が評価したものが正解じゃない。

 

第三章は崎村の息子・源哉と奈津実の娘・歩実が再会するところから始まる。崎村や歩実の父の会社があれからどうなったのか、そしてその事件により替わって成長した建設会社の社長・逸子が登場し攪乱させられる。


この3つの人間模様が最後に合わさり意外な真相を導き出すわけだが、それが決して特定の誰かの悪意や企みの結果によるものだとは言えないところがこの物語の妙だと思う。狭い町だからこそ意外なところで人と人は繋がり、1人の行為が大勢の人生に影響を及ぼす。あの時ああしていれば、を考えるとキリがないが、どう転んでも選択したのが自分である限り受け入れることは可能だろう。しかし運命の歯車が狂い、影に取り込まれてしまった人々がいるのも事実。思い通りじゃないから生まれるドラマ、それを持つのは物語の人々だけじゃないんだなと切に思った。