
阿津川辰海著。講談社タイガ。
殺人を企む一人の男が、土砂崩れを前に途方にくれた。 復讐相手の住む荒土館が地震で孤立して、犯行が不可能となったからだ。 そのとき土砂の向こうから女の声がした。 声は、交換殺人を申し入れてきた――。 同じころ、大学生になった僕は、 旅行先で「名探偵」の葛城と引き離され、 荒土館に滞在することになる。 孤高の芸術一家を襲う連続殺人。 葛城はいない。僕は惨劇を生き残れるか。(裏表紙引用)
<館四重奏>シリーズ第3弾。
25年本格ミステリ・ベスト第8位作品。
22年の2位から下がったね。まあそりゃそうかもしれないなという内容。葛城が探偵としての苦悩から脱却しコミュ力がダダ上がりし、このシリーズのピークを過ぎてしまったという感じ。あのうだうだ悩む感じが良かったのに、、とも思うがその感じが苦手だという読者もたくさん居たと思うのでまあそれはいいのか。そのかわり紅蓮館での好敵手、飛鳥井さんのうだうだが暑苦しい。謎を解きたいくせに解きたくない解きたくないと天邪鬼な性格なのでこちらは全く過去のあの事件から立ち直れていない様子。個人的には飛鳥井さんの方はあまり思い入れがないのでちょっとイラっと。
火災、水害ときて今度は地震。2作続いたタイムリミット構成はなくなったのかと思いきや、長壁町の葛城、荒土館(字は合ってます、このシリーズはタイトルと実際の館名が違うので。紅蓮館は「落日館」、蒼海館は「青海館」)の田所&三谷に分断されそれぞれに事件が起きるという設定で、田所側の時系列を逆にすることでタイムリミットが発動。葛城のほうは名探偵なのであっさり推理で解決&事件を未然に防ぐ(まあこれもあとで色々裏があるが)。ワトスン側の田所も一応推理作家なので推理がんばる。こっちのほうが事件が大きい&多いので被害者出まくり。葛城がこちらにいれば。。。ともどかしい。
今回は偶然の要素が強く、作者としてもあえて「偶然うまくいった犯罪者の恐ろしさ」を描いているのだと思う。トリックは派手で見所あるけれど、もうこういうのはいいかな、、。交換殺人の相手が荒土館側の誰だか分からない、という状態は面白いし、葛城と田所の事件が重なり合ってからの怒涛の真相は意外性あってよし。犯人も手段も分かっていても、関係者の心の襞まで分け行って収束させてこそ解決、という葛城のポリシーゆえに人間関係や犯人らの心情、関係者の性格、細かい行動や言動までもが事細かく解き明かされる。
まあすごかったけど、読んでいてドっとメンタルと体力が消耗される2作目の方が好みかな。