
櫻田智也著。東京創元社。
昆虫好きの心優しい青年・魞沢泉。行く先々で事件に遭遇する彼は、謎を解き明かすとともに、事件関係者の心の痛みに寄り添うのだった……。ハンターたちが狩りをしていた山で起きた、銃撃事件の謎を探る「白が揺れた」。花屋の店主との会話から、一年前に季節外れのポインセチアを欲しがった少女の真意を読み解く「赤の追憶」。ピアニストの遺品から、一枚だけ消えた楽譜の行方を推理する「青い音」など全六編。日本推理作家協会賞&本格ミステリ大賞を受賞した『蝉(せみ)かえる』に続く、〈魞沢泉〉シリーズ最新作!(紹介文引用)
魞沢泉シリーズ第3弾。
キレイな装丁。大好きな昆虫青年魞沢泉シリーズ新刊にテンション爆上がり。今回は6編収録の連作短編集。
「白が揺れた」
へぼ獲り体験に参加した魞沢泉。山中で誤射とみられるハンターの遺体が発見される。ハンターの基本であるバックストップがなく、被害者は腰に差した白いタオルを鹿と見間違えられ被害に遭ったとみられる。犯人は逃走しており、支部長の息子の車が目撃されていたが……。
25年前の悲劇が今回の事件の引き金になったことは想像に難くないが、魞沢泉の静かで鋭い観察眼によって真犯人と動機があぶりだされる。魞沢が見ていた犯人のなにげない行動。悲しい事件だ。
「赤の追憶」
花屋の店長、翠里の店にやってきた魞沢泉。季節はずれのポインセチアから母娘のすれ違いが判明し、切ない事実が導き出される。この2人が魞沢泉に出会えたことは運命だし、前に進むことができた。
「黒いレプリカ」
北海道宮雲市の噴火湾歴史センターの活動に参加する魞沢泉。虫がいればどこにでも現れるな。。圧痕土器に練りこまれた虫を調べたりするのね。遺跡調査で出土した土器と、人の白骨。行方不明になった職員と関係が?発見場所を荒らした部長の意図とは?
行方不明になった田原課長とほぼ主人公の甘内さんとの関係が事件の中で重要なドラマを担っている。
「青い音」
古林と魞沢泉が出会った文具店で見つけたインク瓶は古典的製法モッショクシインクだという。古林の亡くなった父と母の思い出を辿るとともに、父の無くなった1枚の譜面の秘密が明らかに。ピアニスト石戸檸檬がどうストーリーに噛み合うのかも肝。魞沢との友情の始まりにしっとり。誰にとっても魞沢は魅力的な人物なんだなあ。あそこに魞沢が来るといいな。
「黄色い山」
1話目で魞沢が世話になったへぼ獲り名人の葬儀が営まれた。副葬品の謎、例の事件がまた蒸し返され、さらに具体的な事実が。真相が明らかになれば傷つく人がいたり誰も救われなかったりする。魞沢の葛藤と優しさ、正義感が少し浮き彫りになるキーとなる作品。
「緑の再会」
2話目の花屋母娘との再会のお話。特に事件が起こるわけではなく、花屋との会話で魞沢の勘違いだったり願いだったり、「あれから」の物語が描かれる。魞沢のおっちょこちょいな一面も見られてホっとする一作。
以上。
1,2作目に比べると少し濃密さが薄まった気はする。が、魞沢泉の犯人を追い詰めない語り方や虫ラブ要素は健在。だんだんと魞沢泉のキャラクターがしっかり色づいてきたかな。いるのかいないのかわからない感じなのに人を引き付ける感じ。虫がしっかり関連しているのに虫が苦手な人でも読めちゃうあたりもやっぱり好きだな。